えほん育児日記
〜絵本フォーラム第77号(2011年07.10)より〜

不安で揺らぐ心に語りかける「あなたはあなたのままでいい」

 『みんなかわいい』

内田麟太郎/文、梅田俊作/絵、女子パウロ会

岸本 安代 (絵本講師)  

 表紙は黒地に「みんなかわいい」という七色の文字。やさしくやわらかい言葉の響きと共に一文字一文字が個性を持っているように感じます。巣の中の卵が割れ、一羽のひなが顔を出しています。何を見、何を思っているのでしょう。

  表紙をめくると、七つの卵にひびが入り、ひなが生まれようとしています。「しろいとりのむれに くろいとりがうまれました」「くろいとりのむれに しろいとりがうまれました」中抜きで書かれた「ろ」の文字から作り手の思いが伝わってきます。
  群れの中で色が異なるということだけで受け入れてもらえず、仲間はずれにされる。自分の居場所がないということは、どんなに不安で淋しいことでしょう。「くろいとり」「しろいとり」はそれぞれに遠くに、同じ色をした鳥の住む場所(自分を受け入れてくれる仲間 心いやされる場所)を目指して飛び立ちます。はるか遠くの山の麓に輝く黄色い光で描かれた絵からも思いを感じとることができます。

  しかし、そこまでの道のりは、長く厳しく、疲れ果てからだを休めるために下りた雪の舞う高原で二羽は出会います。お互いに相手におびえ、受け入れることができませんが、あまりの寒さにどちらからともなく寄り添い温め寒さをしのぎます。寄り添いまるごと受け入れてもらう事、自分が必要とされている事は、心の支えとなり大きな力になります。

  お互いに違いのある事を認め、相手を受け入れます。春!あたたかい陽ざしの中、命の誕生です。それぞれに異なった模様をした子どもたちが生まれます。春の訪れとともに、あたたかい色で見開きいっぱいに描かれた子どもたちの姿。多くを語る必要はありません。絵が語りかけています。

  私は時々子育て中のお母さんから子どもの事で相談を受けます。「だいじょうぶ!子どもの思いを受け止め、心と身体でしっかり抱きしめてあげてください」と伝えます。しっかり抱きしめて欲しいのは、子どもだけでしょうか。日々あわただしく、多くの雑音の中で生活をしていると、ふっと「私はこれでいいの?」と心の揺らぎを覚えます。

  皆と一緒でないと不安で落ち着かなかったり、つながりを求め共通点を見出そうとします。心安らぐ居場所を求めているようにも思います。そんな不安で揺らぐ心にこの本は語りかけてくれます。「あなたは あなたのままでいいのよ!」そんな声が聞こえてきます。(きしもと・やすよ) 

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