こども歳時記

〜絵本フォーラム77号(2011年07.10)より〜

絵本の力をかりて「心のはらっぱ」を探す夏休みに

 「ばったしゃん、あそびましょ」台所に立つ私の足元に、もうすぐ2歳になる三女が絵本を持ち込んで座り込み、大きな声で読み始める。絵を見ながらほぼ正確に文章を話す様子は、2人の姉たちの時と変わらない。日に日にたどたどしさが減っていることにも驚く。 

 少し前まで「ヘホン(絵本)ドッカイ(もう一回)!」と、一日中、私を追い回していたのに、近頃は「ヨンデ」「モウイッカイ」「オシマイ」が一通り終わると「ジブンデヨム!」 

 そして別の絵本を読みたくなると、また「ヨンデ!」と、えっちらおっちら運んでくる。

 外に出れば、蟻を追ったり石を拾ったりしながら歌を歌い、絵本のセリフを口ずさむ。言葉のシャワーを存分に浴び、頭をフル回転させているんだなぁ!公園で「ハトシャン!」と鳩の群れを追いかけ、逃げていった木の上を指さして「ホシイ、ホシイ!」と、べそをかく姿は『わたしと あそんで』(マリー・ホール・エッツ ぶん/え、よだ・じゅんいち やく/福音館書店)の少女と重なって見える。つい先日も、幼稚園のお友達親子と大勢でお弁当を食べていたら、敷物や足の上にまで乗ってきた鳩がいて驚いたっけ。静かにしていたら近づいてくるんだね。でも、子どもは動物を見たらじっとしてなんかいられない。声をかけたい。一緒に遊んでみたい。追いかけたくなる気持ちも、よく分かる。 

 静かな息づかいと静かな森の美しさ。そして最初から最後まで少女を見守る太陽の笑顔。幼い頃、夏休みに家族で出かけた信州や北海道で、早朝に森を散歩した時のことを思い出す。そして今では「こんな所に行ってみたい、住んでみたいね。」「また(自然の豊かだった)神戸に遊びに行きたいね。」と話しながら、娘たちと絵本を囲んでいる。

 少し早い梅雨が明けたら、きっと夏休みも間近。いつもなら、早ければ大型連休を過ぎた頃から楽しい計画に思いを馳せたり家族で話し合ったりするのだが、今年は、先の震災や原発事故による影響が続いていることを思うと胸が痛み、また日々の暮らしに追われてなかなかそうもできないでいる。しかし、子どもたちが与えられた環境の中でも日が暮れるまでたっぷり遊んだり、今しかできない体験を存分にして欲しい。そして、できることなら整備された遊び場だけではなくて、野山を一緒に駆け回ったりもしたいと思う。もちろん絵本からもたくさんの力を与えてもらって。

 裏表紙まできちんとめくり「わたしと あそんで、でした」と、満足そうに絵本を閉じる三女を見て「すごいねぇ、毎日、読んでもらっているからだねぇ」と夫が目を細める。いいえ、私たちも一緒に楽しませてもらっていますよ!そんな小さな日常の幸せをかみしめ感謝しつつ、これからも親子で絵本の旅を楽しむ日々を過ごしていきたい。また、一人でも多くの方たちと、その長い道のりを分かち合えればと願っている。

(すいとう・よりこ)


『わたしとあそんで』
(福音館書店)

前へ  ☆ 次へ