絵本のちから 過本の可能性

「絵本フォーラム」76号・2011.05.10

『絵本講師・養成講座』を受講して
—— 絵本講座を修了して思うこと ——

弓立 瑶子(芦屋 7期生)

 愛媛県に生まれ、のんびり幼少期を過ごす。15歳で本州に上陸、幼児教育を学んで以来、絵本に惹かれている。結婚後10年で母親となり現在は小 5と小2の子どもとデンマーク人の夫と4人家族で子育て中。小学校での読み聞かせが5年目になる。


 この度「絵本講師・養成講座」第7期生として講座を修了することができ、喜びと感謝の気持ちで一杯です。けれども、修了式からわずか2週間後、思いがけないことが起こりました。観測史上最大級の震災が東日本を襲い余りにも多くの命や暮らしを一瞬にして奪ってしまいました。 信じがたい景色を目の当たりにして、被災された方々のご心痛は想像に余りありますが、その只中にある懸命なお姿を見守り祈る毎日です。一日も早い復興を心より応援しています。

 さて、私の幼い頃といえば母の子守唄の歌声とささやかな絵本の思い出、それを自分の子どもと共に再び耳にした時は、懐かしい心地よさで響きました。絵本を集め始めて20余年、細々と絵本の小道を辿っていたある日のことです。 子どもの幼稚園で絵本講座が開かれて、講師の森ゆり子先生のひと言ひと言が自分の中の絵本体験に静かに重なるようで感激しました。

 親子で絵本を楽しむ幸せな中にも、子育てに悩んでいた心に 「それでいいのよ」 と優しく光をさして下さったのです。 その時自分の中の絵本の存在の大きさを実感し、絵本とは何だろう、もっと知りたいという思いが心から溢れ出たようでした。読み聞かせ活動も絵本屋さんも、絵本を通した関わりには何か特別な空気があり、私にとって心休まる場所でした。普通の母として二人の子育てをしている自分が一体何のために受講するのかを自問しながらも、環境や友人、夫の温かい支えに恵まれて受講生となれたことは、本当に幸運だったと思います。

 絵本講師とは何かも知らぬまま飛び込みましたが、会場でのお話や講座全てが興味深くて胸がどきどきしたのを覚えています。苦しい手書きリポートは学びを本物に導いてくれるもの、講座の内容や出会った本、各課題等について繰り返し考えた時間がいつの間にか心を整理してくれました。細やかに読んで下さる藤井勇市先生のお言葉もありがたく、他にはない学びの時を過ごさせて頂いたことを感謝しています。また本講座では、絵本を大切に思う多くの方々の幅広い活動に出会い驚きました。絵本を通じて出会う方達は初めてお会いした気がしなくて、笑顔が素敵な方ばかりだなぁとしみじみ嬉しく感じたものです。

 講師の先生方は温かなまなざしで子どもを見つめ、人として生きる道について問いかけます。子どもを理解しその心に寄り添い共感することの大切さ、未来の社会を担う子ども達の健全な発達と心の成長を、私達大人が守り育てることへの強い責任感と信念を。そしてそこに絵本があり、その世界への扉を大きく開いて下さるのです。 家庭で親が子に絵本を読むことがどれほど奥深い営みであるか、それは想像以上のものでした。小さな喜びの繰り返しの向こうには、この複雑な情報社会において、より人間らしい幸せを感じながら生きていくための確かな道筋があるのです。私にとって日々の我が子への読み聞かせは大切な一歩でしたが、それこそが本講座の核心にあるもののひとつだと知り、勇気がわいてくる思いがします。

 大切なことを指し示して下さる先生方や先輩方、共に学んだ方々に感謝しつつ、絵本の力を信じて、今後の学びや自分にできることにつなげていきたいと願っています。

 すぐれた絵本を通して、子どもが本当に求める世界を共感できる幸せ、子どもも大人も心をすっかり満足して‘生きる力'を増していく、そんな絵本の不思議な力を私達は知っています。 いまこの時も被災地のどこかで子ども達に絵本が開かれていることを思います。宝の小箱のような絵本の世界をたくさんの子ども達が旅すれば、きっといいことがあるはずです。(ゆだて・ようこ)


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