絵本のちから 過本の可能性

「絵本フォーラム」76号・2011.05.10

『絵本講師・養成講座』を受講して
— 多くのことを学ばせてもらった一年 —

山田千恵子(芦屋会場)

 1962年岐阜県生まれ。東海女子短期大学初等教育学科卒業後保育園勤務。子育て中にお話ボランティアを始め、勉強の必要性を感じ司書資格を取得。「JPIC((財)出版文化産業振興財団)読書アドバイザー」。現在、保育士の傍ら小学校や図書館他で読み聞かせ、ブックトーク、朗読等の活動を続ける。愛知県刈谷市在住


 再び春が巡ってきました。昨年4月、第7期「絵本講師・養成講座」を受講するため初めて芦屋を訪れた時の緊張感が蘇ってきます。

 幼い頃から本が大好きだった私にとって、長じて絵本もまた常に身近にある存在でした。保育士の仕事の中で、我が子の子育てや小学校等での読み聞かせボランティアとして、多くの絵本と出合い、その素晴らしさを子ども達に伝えることに喜びを見出してきました。

 ですが、いつからか「なぜ読み聞かせをするのか」「自分が好きだから、子どもに本好きになってほしいからという理由だけで良いのか」、そんな疑問を抱くようになりました。今にして思えば、子どもを取り巻く社会環境の急変に「子どもと絵本」を「今」の視点で学び直す必要性を感じていたからかもしれません。

 そんな時、偶然読んだ書籍の中の<絵本で子育てセンターの活動>の頁が目に飛び込んできました。子育てにいかに絵本の読み聞かせが必要なのかを体系的に学ぶことが出来、それを発信する絵本講師を養成する講座。これだと直感しました。全6編のスクーリングと5回の課題リポート作成は容易ではないと思いましたが、素晴らしい講師陣、そして何より学びたいという気持ちが募り、家族の理解を得て踏み出せた一歩でした。

 扉の向うには、今まで経験したことのない学びの場がありました。特に初回の中川正文先生の「絵本は与えるものではない、大人と子どもが共に楽しみ成長するものだ」というお話は、わが身の立ち位置のいかに傲慢だったかを思い知り、人として謙虚に、真摯に学ばせて頂かなければ…と肝に銘じました。

 講座では“良い絵本とは”から始まり、絵本と子どもの歴史的観点からの展望、現代の子育て事情の困難さ、「言葉」の大切さなど多角・多面的に学ばせていただきました。講師の先生方の一言一句が心に響き、今思い出しても、宝物のような珠玉の時間でした。

 しかし正直、課題リポートは‘生みの苦しみ'もありました。特に私にとって第3編のリポートは、自分の子育ての欠点を否応なく直視しなければならず、精神的苦痛を伴う「難関」でした。ですが、ここで自分の子育てを見つめ直さなければ、これから子育てをする方たちを応援することなどできないはずだと意を決しました。

 結果、そのことは私を大きく変えてくれました。子どもが持つ本来の素晴らしい力に尊敬の念がわき、親としての溢れる想いに寄り添っていきたいと心底思えるようになりました。私にとって、この時が絵本講師のスタートラインに立てた時だったように思います。

 今、保育の現場では‘子育て支援'の名のもと、子育てがサービスとして捉えられているように感じます。そこには本当に大切な「親子の心の絆」が置き去りにされている気がしてなりません。今の時代だからこそ大切な「親子の心の絆」。

 これを絵本の読み聞かせで築いて頂きたい、と伝え広めることが絵本講師の社会的意義であり、本当の‘子育て支援'になると今改めて感じています。

 振り返れば、私たち受講生を常に優しい笑顔で見守ってくださった森理事長はじめ先輩講師の皆様、時に諭し励ますように課題リポートを添削くださった藤井講師、そして同じ志を持った同期の皆様との交流、そのすべてから多くの事を学ばせていただいた一年でした。

 今新たなスタート地点に立ち、まずは絵本講師として少しでも社会に役立てるよう努力を重ねると共に、ぜひ近い将来、読み聞かせの活発な地元・東海中部地方でも本講座を開講していただき、お仲間と力を合わせ地域に広げるお手伝いをしたいと強く念じております。

 本講座と、出会えたすべての皆様に深く感謝申し上げます。ありがとうございました。

(やまだ・ちえこ)


前へ ★ 次へ