私の絵本体験記

「絵本フォーラム」73号(2010年11.10)より
「読み聞かせ…それは愛情の記憶」
久賀 弥生さん(兵庫県西宮市)


 「母はん・・・絵本の読み聞かせもうええわ」。長男がそう私に告げたのは、彼が6年生の時でした。読み聞かせ卒業宣言です。突然のできごとで、長男とは小さい頃から沢山の絵本を読んできたつもりでしたが、もっともっと沢山の絵本を読んであげればよかった、と寂しさとともに訳の分からない後悔が押し寄せてきました。「あの子の好きな絵本はこれやったなぁ」と、私の膝の上で一緒に絵本を読んでいた小さな長男を、しみじみと思い出してみたり…。
  でも、「絵本読んでぇ〜!」とお腹を空かせたひな鳥のように、次男と長女が足をばたつかせて布団の上で待っています。「よっしゃ!」と気を取り直し、子どもたちの隣に潜り込みます。寒い夜、お布団の中で子どもと一緒に絵本を読んでいると、冷たかった子どもたちの足がだんだんと温もってきます。その温もりはやがて私の心の中にも流れてきて、とても幸せな気持ちになります。私はその温もりこそが親子の絆であり、絵本を読み聞かせるひとときにかけがえのないものが育まれているように思います。
  ある日、実家から持ってきたぼろぼろの絵本の最後のページに、母の字で書かれた私の名前を見つけたとき、溢れるような母の愛を感じました。「このお話、大好き」と言って読み語ってくれた、若かった母の声が聞こえてくるような気がしました。読み聞かせ…それは愛情の記憶。子どもたちが自ら卒業する日まで、ずっと続けていきたいと思います。(くが・やよい)

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