えほん育児日記
〜絵本フォーラム第71号(2010年07.10)より〜

絵本講師のつぶやき

 松尾 理恵子(絵本講師)

 ななちゃんのママは、少しがんばりすぎてこころが風邪を引いてしまいました。ななちゃんはママに会えなくなり、奈良から九州のじいじとばあばの家にやってきました。

 四歳だけれど、ななちゃんには全部分かっていたようです。不安な気持ちを隠すようにおしゃべりをたくさんしてくれました。でも、夜はやはりさびしくてさびしくて仕方がありません。

 ばあばは、けなげに涙をこらえているななちゃんにどう接していいか考えました。幸い、ばあばの家には、ななちゃんのママに読んであげた絵本がたくさんあります。ななちゃんが好きなだけ絵本を読む日が続きました。夜寝る前、昼間のちょっとした時間、ななちゃんの心がさびしくなるとき。絵本はななちゃんの心に寄り添い、癒し、ママの愛情を忘れることなく、希望を与えてくれました。

 明日、ななちゃんは五歳の誕生日を迎えます。大好きなママが焼いた手作りのケーキで家族みんなにお祝いをしてもらいます。時々は涙を見せることがあったけれど、ななちゃんのとびきりの笑顔はいつも家族を元気づけてくれました。明日は最高の笑顔で、ケーキをほおばることでしょう。

 絵本講師の第二期生として、たくさんの本や仲間と出会い、心を揺さぶる話やたくさんの課題に向き合う一年を過ごしました。なかなか絵本講師本来の活動をする暇がなく数年が過ぎましたが、昨年、関門絵本講師の会を立ち上げ、近隣の絵本講師修了生の方々と活動を始めました。

 門司区の幼稚園四か所で絵本講座を開催し、「絵本で子育て」「絵本が育むもの」「絵本の持つ力の素晴らしさ」などを、それぞれの講師の語り口と選本した絵本の力を借りて、参加者である若いお母さんや幼稚園の先生に伝えました。

 ななちゃんのママのように、一生懸命に子育てや家事をがんばっているお母さんたちは、絵本の読み聞かせを聞いて、ほっと心を開放させているようでした。読み聞かせを聞いているときの心地よさや安心感。毎日子育てに追われ、体だけでなく疲れている心が和むひとときをお母さん方に感じてもらえました。「絵本を読んであげてください。」と何度も言うより、一冊の絵本の読み聞かせを聞いて、自分の心が癒される体験は、理屈でなく、絵本の素晴らしさを大人にも伝えられることを感じています。

 とかく、『絵本は子どもが読む本』として扱われ、様々なゲームやIT機器の普及が低年齢化し、活字離れが進んでいる現状ですが、昨年は、ななちゃんを始め、絵本講座で出会った多くのお母さんの声から、絵本の持つ魔法ともいえる力に改めて感動をもらいました。

 また、小学校の読み聞かせ活動で、毎週四十分、様々な絵本を読んできました。感受性の強い子どもたちだからこそ、本物の絵本に出会ってほしいと思います。瞳を輝かせて食い入るように絵本の世界で遊んでいるようでした。なかでも、絵本「アフリカのどうぶつたち」のシリーズを毎週楽しみにしていました。一冊ずつ完結するけれど、全体を通して壮大なドラマが経糸のように描かれていて、ライオンシリーズやゾウの家族のシリーズが横糸のように絡み合って、子どもたちは迫力のある絵本の世界に食い入るように浸っていました。

 最近、子どもたちの言葉の乱れが気になっていましたが、絵本の世界で心や空想を遊ばせている子どもたちは、人を傷つける言葉を簡単には口にしないのではないでしょうか。

 心を優しく包んでくれる「ふわふわ言葉」と、心に刺さる「チクチク言葉」。

 私は子どもたちに絵本を通して「ふわふわ言葉」で語りかけ、心がふわふわする時間を伝えていきたいと思っています。でも、一人の力には限界があります。だから、多くの仲間と協力して絵本講座を開催し、家庭での会話が、優しい「ふわふわ言葉」で語られることを願い、絵本の素晴らしさを一人でも多くの方に伝えていきたいと思います。

 絵本はななちゃんや、ななちゃんのママの心を癒してくれました。同時に、ばあばの心を優しい気持ちでいっぱいにしてくれました。 (まつお・りえこ)

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