こども歳時記

〜絵本フォーラム第69号(2010年03.10)より〜

大人自信も個性を大切に

 日増しに暖かさを覚える頃、保育園・幼稚園や学校では年度のまとめの時期を迎えます。

 この一年、 ある 学級 では、先生が家庭と協力し、誕生や成長の記録を振り返ることで今を見つめ将来像を描かせるという指導を通して、子ども達の自尊感情を育みました。自分は愛されている大事な存在だと実感できれば、他者(級友)も同様だと思いやり 高めあうことができます。

 私たち親は、大事に育てて いるつもりですが 、子に愛を感じさせてやることができていな い のでしょうか?家庭で自尊感情が育ちにくくなった理由を汐見稔幸氏は著書『子どもの自尊感と家族』(金子書房)の中で二つあげています。
  ひとつは、子どもが〈幼い頃から周りの大人から過剰に評価され、それに適応して生きざるを得ない生き方を強いられていること。〉もうひとつは、親が〈子どもの性格をネガティブに評価することが多くなってきていること〉です。親に育児責任が過剰に課せられているという社会背景があり、私たち親は良かれと敷いたレールから我が子が外れないようにと気負いがちです。
  しかし、自分が人生の主人公だという自尊感情は、家庭の中で、信頼している他者(親)がありのままの自分を受け入れてくれているという体験を通して築かれるのだそうです。
  だからこそ、私たち親には、〈子どもの個性の芽のような行動の特徴を、できるだけ「善く」見ることができることが期待されている。−略−おまえにはかけがえのないこんな「善さ」があると、心から親が言ってやれるようになることが必要になっているのだと思う。
  そのためには、生きていることを喜びと感じられるような家族間の行動が必要になるだろう。たとえば家族でいっしょに団らんを楽しむ、ハイキングに行く、家族で食事づくりをするなど。〉と氏は提唱しています。

 絵本を読むことも、子どもをいろんな角度から見てやるきっかけになります。 絵本を介して親子で気持ちをやりとりする時間を重ねるうちに、 子どもの生まれ持った「善さ」や内面の成長に気付 くことがあります 。
  『かみさまからのおくりもの』(ひぐちみちこ作 こぐま社)を開くと、すてきなおくりものをもらったね、それを生かしてがんばっているねと、子どもをまるごと受け入れてあげたくなります。

 新学期、それぞれの「善さ」を発揮しながら羽ばたく子ども達を「善く」見てやれる大人でありたいと思います。そして、大人自身も個性を大事にして周りの人々と力を合わせている姿を示したいものです。

岡部 雅子(絵本講師)


『かみさまからのおくりもの』
(こぐま社)
   

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