リレー

子どもとじっくり付き合える時間を大切に
大阪・主任児童委員 田中 政子

 私は、日々の地域での子育て支援を通じて多くのお母さん達と関わっています。悩みや相談にはしっかりと向き合い話し合いをするように努めています。忙しいお母さんの心が少しずつ温かくなればと絵本を紹介し、絵本を介しての対話もあります。

 『きつねのでんわボックス』(戸田和代作 / たかすかずみ絵 / 金の星社)は、わが子への思いが余すことなく描かれていてやさしい気持ちになれます。読めばお母さんの目から涙がこぼれます。大人の心をも潤し成長させてくれると実感できる良い絵本に出会っていただきたいと思っています。

 また今は、子ども達が育つには幸福な時代とは言い難く、社会の不条理の中で心を傷めています。そんな子どもの心に寄り添いながら絵本の読み聞かせを試みます。『いたずらきかんしゃチューチュー』(バージニア・リ・バートン作 / むらおかはなこ訳 / 福音館書店)は、温かさと安心とやすらぎを感じさせてくれます。子どもの心に、絵本への興味が膨らみ始めたら、この絵本が「生きる力」のスイッチを入れてくれると思えるのです。

 一方、地域での子育てサロンには、毎回 20 組ほどの親子の参加があります。手遊び等に加え絵本の時間を大切にしています。子どもの月齢にも差があり、絵本選びも難しく思いつつ 2 〜 3 冊の読み聞かせを行っています。母親の膝から身を乗り出して絵本に見入る子、うろうろと落ち付かない子、さまざまです。わが子を心配するお母さんに「好きになれる方法と好きな絵本にまだ出会ってないだけですよ」と語りかけます。絵本への質問が来た時、今がチャンスと思い、母親との対話を楽しみながら共に学び合うようにしています。家庭の身近な場所に絵本があり、絵本での親子のふれあいの時間を楽しみ、親子で心が豊かに成長してゆくことに気づいてほしいと思います。子どもとじっくり付き合える月日はせいぜい 10 年余りです。我が子と感動を共有できる時間を何よりも大切にしてほしいと思います。

絵本フォーラム69号(2010年03.10)より

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