たましいをゆさぶる子どもの本の世界

 
「絵本フォーラム」第63号・2009.03.10
●●52

規則は絶対ではない。守れないことだってある

『としょかんライオン』

 規則とは、決まりであり約束事だ。多くは国や企業や学校などの組織体が決定する。友だちの間で結ぶ約束事も決まり。なかには、不穏当な組織の黒い規則もあるだろう。

 規則や約束は守らなければいけない。果たしてそうか。守らなかったらハリセンボン ( フグの一種 ) の針を飲ますと脅かされ、児童生徒になると校則破棄は罰を受ける。規則の親方みたいな法を犯すと犯罪だ。 だから 、規則は守らなければならない…?

 ぼくは 法哲学を少しかじる。法の精神やら法の思想を対象とする学問だが、法や規則が決して磐石でないことを知る。歴史と法、慣習と法、道徳と法、正義と法、…いくらかなりと学んでいくと法や規則が結構危うい解釈で成り立っていることが分かる。Aの正義がBの正義と正対してぶつかり戦いが起こる。悪法も法なりと恐怖に貶められることはないか。だから、ぼくの思う「 だから 」は、法や規則だって無批判に従うばかりではまずいのではないかということだ。ときには、規則破りが人間の良心に適ったり、悪を駆逐し善に連なったりする。

 さて…、絵本ばなし。とある街の図書館にある日ライオンがやってきた。職員は大慌てで館長の部屋へ。規則に厳しい館長は「走ってはいけない」とまずは職員をとがめる。で、事の次第の報告に対し、「ライオンが決まりを守っているのならそのままにしておきなさい」とまるでうろたえない。なんだかのほほんとした趣きなのである。いいなぁ、如何にもナンセンスな絵本づくり。白地バックに明瞭な描線で具象された絵物語の展開。室内をゆっくりと巡る百獣の王も風景にすっかり溶け込んでいるではないか。絵本部屋ではお姉さんの読み語りにじっと聞き入る。

 ある日の館長室に館長とライオンだけがいた。そこで、踏み台にのり本をとろうとした館長がふらついて床に倒れ込む。助けを呼ぶ館長。しかし、別室の職員まで声は届かない。さぁ、そこでライオンに助け舟だ。廊下を走るライオン。「走ってはいけません」と、館長は規則を声にするのだが…。ライオンが職員に知らせることができる方法はひとつだけ。うおおおおおおおお ととんでもない大声を出すことだけだった。

 「しずかにしなきゃ、いけないんだぞ ! 」と叱責されるライオン。規則破りのライオンはうなだれて出口へ向かう。

 ライオンの吼声で事故が発覚して館長は助かった。…だが、次の日から図書館にライオンの姿が見えなくなる。

 しばらく時を経て図書館前に寂しく座り込むライオン。「あのう、ご存知ないかもしれませんが図書館の決まり変わったのですよ」と職員。友達を助けるなどの理由があるとき、規則は特別扱いだと告げるのだった。ライオンの耳がぴくっと動く。

 次の朝、ライオンがやってきたのはいうまでもない。館長は椅子から飛び上がり廊下へ駆け出す。職員の「走ってはいけません ! 」の声を後ろにして…。

 やはり、規則は磐石ではなかった。規則や決まりは守らなければならないが、守れないことだってあるのだ。

『としょかんライオン』(ミシェル・ヌードセンさく ケビン・ホークス絵 福本友美子やく、岩崎書店)

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