えほん育児日記
〜絵本フォーラム第63号(2009年03.10)より〜

がむしゃらに頑張る…の向こう側

井下   陽子(「絵本で子育て」センター・はばたきの会副会長)

  山奥(丹波)の主婦の私が、絵本講師と肩書きの付いた名刺を作っていただいたのは 4年前のことでした。あれからちょっと前までは、ただ<がむしゃら>に動いてきました。

 資料を持って地元の役所や保育園を訪ね、友達と会えば絵本の良さをまくし立て、少しでも絵本に関係する仕事があれば、全て即「宜しくお願いします!」と答えました。

 保育園児たちへの「読み聞かせ 」から始まり、若いママ達、幼稚園の親子、保育士さん、ボランティアを目指す方への絵本講座、親子参加の読み聞かせイベント、お話会。

 講座は毎回原稿を書き直し、子ども達にもテレビやゲームの怖さを話し、時間が短いときには帰ってから読んで欲しくてミニ本も作りました。

 自分でもこの<がむしゃら>がどこから来たのか不思議でしたが、絵本講師の仲間達とおしゃべりをする中で気がついたことがあります。

 私は永い間、保育者としてたくさんの子ども達に「がんばれ!しっかり!まけるな!」と発破をかけてきました。今ではその子ども達も「ベテラン」「中堅」と呼ばれ、社会の中心にいます。が、この「ベテラン」達はごまかしをし、派遣社員を弄び、儲けることに執着しているではないですか。

 この「中堅」達は家族の食事よりも自分の携帯代や遊興費の方が高い生活をしているではないですか。頑張りすぎて病気になったり、派遣切りの犠牲者になったりして寝るところさえ無くし、自ら命を絶つ人さえいるではないですか。我が子を自分の意に沿わそうと早期教育にのめり込んでいるではないですか。

 私は「私達は間違った方法で育ててしまった」と後悔しているなかで見つけた「絵本で子育て」だったのです。嬉しさが爆発し焦りに背中を押されていたのでしょう。

 私は良いことをしゃべっているのだからしっかり聴いて実行して、と再び「頑張れ、しっかり」を繰り返しそうになっていたのです。ボランティアを志す人は志があるからか、こちらを向いて、時にうなずいて熱心に聴いてくださいました。ところが、若いママ達は私が懸命に講座をしている途中、おしゃべりをしたり子どもと遊んだりしているのです。

 何度かの講座で、私が原稿をそのまま読んでいるときや「正論じゃん!」ということを言っている時にはおしゃべりが始まり、自分の経験や感じたことなどを私の言葉で話している時には顔がこっちを向いてくれることに気がつきました。で、次の講座ではお友達の家族の様子をしゃべらせて貰うことにしました。その次の 講座では答えやすい質問を入れました。少しずつこっちを向いてくれる時間が増えてきて・・なんてこと!私は若いママ達に育てて貰っていたのです。それを知って<がむしゃら>は恥ずかしがって引っ込んでしまいました。

 今もママ達のしんどさに寄り添ってあげているとはいえず、講座の前にはやはり原稿をいじくるだけの私ですが先日、子育て支援教室のママから「この子の絵本を買うとき、この前おかあさんにと読んで貰った絵本を私のために買ったのです。いままでのどの育児書より私の支えになっています」の言葉がありました。絵本に助けられ、ママ達に引っ張られ「『絵本ばあば』がおった!」とのぞくかわいい瞳に勇気を貰い<がむしゃら>ではなくとも大満足で迎えることができた今年のお正月でした。

 そのお正月のことです。孫に「今年の目標は?」と聞くと、「バアバの目標は?」と聞き返すのです。「私は・・・良い仕事をする。君は?」慌てて言った「良い仕事!」…。「良い仕事?」又壁にぶち当たってしまいました。

 とても上手に絵本を読んであげること?…。コンクールに出るわけではないし、関西弁丸出しだし、上手に読むならボランティアの人の方がずっと上だと思う。ではないな。

 最近増えたイベントで私と楽しく遊んで帰って貰うことかな? 絵本が楽しめて仲良しになれるのはいいけれど、家で「読んで」と言われたお母さんは「また、あのおばちゃんに読んで貰おうね。楽しかったね」となりそうで、ちょっと違う気がする。

 先日、養成講座で受講生の方が「最近の親って絵本をファッションのようにして買っていると思う」と言われていた。絵本を買って貰うことは子ども達にとっても、本屋さんにも、絵本業界にも嬉しいことではあるが、ファッションと同じだから、流行が終われば、見向きもしないし、子どもが読まないとすぐにブック「○×」に売ってしまうのかもしれない。「私は、絵本は文化として、親子で買って親子で楽しんでほしい」このことを伝えることが良い仕事なのだろうか? なに、今年はまだ始まったばかり、やっぱり今年も絵本と聞けば 全て即「宜しくお願いします!」と答えつつ、絵本講師にとっての良い仕事とは何なのか、 1年かけて、じっくり考えてみることを目標にしましょう。(いのした・ようこ)

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