絵本のちから 過本の可能性
「絵本フォーラム」62号・2009.01.10

山里からの報告
稲垣 勇一(長野県上田市)

プロフィール

1932年長野県上田市に生まれる。信州大学教育学部卒業後、県内の主に国語科教員として勤務。生涯現場でという思いを貫く。定年退職までの間、内地留学として東京教育大学での1年間と退職直前の2年間を除き、学級担任であり続ける。30歳代後半から児童文学への興味や関心が向いてきたが、学級担任と国語科教育の魅力にひかれ、現職中はそこに力を注いだ。退職後、本格的に絵本と民話に向き合うようになる。「日本民話の会」「全日本語りネットワーク」「JPIC読書アドバイザー」「塩田平民話研究所」「上田図書館倶楽部」などに所属。

〈T、子どもたちに向けて〉

1 昔話に関連して

 昔話の力に魅せられその世界に引き込まれてから、もうずいぶんになる。深まりの足取りはもたつき、裾野の広い関連部分をうろついて時間ばかりが経った。活動の焦点を語りに合わせてから少し腰が座ったが、それからまだ 5、6年しか経たない。
 昔話についての重要で優れた資料といえば、国の内外を問わずまず絵本があがる。語る場合でも昔話絵本は座右から離せない。また、語りから絵本の読みに発展することも多い。園や学校で語る場合、条件がゆるすかぎり関係の絵本は紹介する。もちろん、子どもたちの反応もいい。
 今年、こんなこともあった。
 主に不登校生徒対象の教育特区の高校が近くにある。開校当初からの関わりもあって、年1回の昔話授業 2時間とその発展活動に参加してきた。3年目の今年は、より生徒の主体的な学習に移したいと、授業4時間と放課後を使った活動がセットされた。内外の昔話絵本10冊前後を紹介し、選んだ絵本ごと班を作り、課題を出し合って解決に取り組み、地域と共催の行事に発表した。不十分な点はあったが、生徒たちが昔話と昔話絵本に強い関心を持ったことは確かである。

2  15年目に入った群読公演

 20年を越えて、保護者が学校に入って絵本の読みを継続している小学校がある。PTA文化部内サークルの一つで、子どもの卒業・入学につれて会員は年々変わっていく。けれども、活動の伝統がみごとに引き継がれて、ゆたかな成果を上げている。
 その会が、全校児童を対象に物語の楽しさを伝えたいとの趣旨から、群読についての相談があった。特色や方法を説明する会から、それでは実際に脚本と演出をということになって、年 1回の体育館での公演を始めてから今年で15年になる。すべて原作は絵本にある。
 今年は郷土出版社、はまみつを・文、和田春奈・絵『桔梗ヶ原のげんばのじょう狐』を原本に、 40分の群読に脚色した。もちろん作者・出版社の許可を得ての上である。いつものことだが、8月末から毎週2回夜2時間半の練習が続いて、11月中旬の公演当日になる。全校児童と近くの2保育園から50人、さらに100人を越える一般来場者があった。
 練習・公演については、全面的といい切っていい学校と会員の家族の支えがある。そのなかで、装置・照明・音響効果、会場づくりから駐車場係にいたるまで、会員と支える人々の手づくりで進められる。
 その間ずっと、絶えず確認し合っていることの一つに、日常(ケ)的な絵本を読む活動があって初めて群読公演(ハレ)が成り立つということがある。毎回お祭りのようなテンコ盛り式の活動に、私は基本的に異議申し立てをしている。それが重視されるマスコミの子どもの文化意識にも違和感が強い。子どもが喜ぶこと即心をゆたかにすることと短絡する活動の多さに辟易している。地味でも確実な日常活動があってこその群読公演なのだ、とみんなで話し合っている。

〈U、大人に向けて〉

 絵本を、子どもの文化に限定した上に、「絵本を卒業して単行本へ」的な枠から解放したい。絵本がすべての人々のための、優れて自立した文化であることを、大人とともに味わい、考え、伝えていきたい。それが今の私のもうひとつの大きな課題だと思っている。

1 大人のための絵本講座

 2か所で、月1回・毎回2時間の内容の講座を始めて3年目になる。両会場とも参加者は30人前後。ときには1冊の絵本が2か月3か月に渡ることもあって、深く読むという点では、ある程度ねらいは適えられているかと思う。
 これらとは別に、月 1回わが家で宮沢賢治童話を読む会が20年近く続いていて、今年4月から伊勢英子・絵『水仙月の四日』を8人で読んでいる。8か月経ってもまだ3分の2にいたっていない。少しマニアックかなあと思いながら、ずいぶんおもしろいし、自分では新しい見方を教えられてためにもなっている。

2   絵本・読み聞かせ人材養成講座

 絵本と絵本の読みについて基本から勉強したい、と考えたところから始めたもの。今年 2年目。月1回の10回講座。30人限定を35人まで増加したが、会場の都合でそれが目一杯。断る人も出てきてしまった。
 昨年の講座終了者のうち 22人が独立して勉強会を継続し、来年2月と3月の実際活動に焦点を合わせ一生懸命である。今年の受講者が終了後この会に合流し、徐々に活動が深まることを願っている。

〈V、終わりに

 ここでは、私に関わるものだけの報告だし、単発的なものはすべて省いた。その上、この報告で何より欠けているのは、上田地方の絵本に関する活動の全体像である。一生懸命な活動が点として存在しているが、実態は流動的なところがあってなかなかとらえにくい。それにしても、次に機会があればとも考える。

(いながき・ゆういち)


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