こども歳時記

〜絵本フォーラム第60号(2008年09.10)より〜

答えではなく、思考の時間を楽しむ

 まだまだ暑い日が続きますが“読書の秋”の季節がやってまいりました。秋の夜長にどの絵本や本を読もうかと、子どもたちも私もわくわくしています。

 ルピナスは秋に種を蒔き春に咲くお花です。和名が“昇藤(のぼりふじ)”といい花言葉は“空想、いつも幸せ、母性愛、多くの仲間”なのだそうです。

 少女はおじいさんと 3 つの約束をします。 2 つの約束は果たしましたが、 3 つめの約束をどうしたら果たせるのか、なかなか思いつきません。思いつかないまま齢を重ね、とうとう髪に白いものが混じるほど月日が流れていきました。その 3 つめの約束…それは「世の中を、もっとうつくしくする」こと。凛としたルピナスさんの横顔。ある日、ルピナスさんはやっとおじいさんとの一番難しい 3 つめの約束を果たします。そこには至福の時を過ごしているルピナスさんの横顔がありました。ちょうど花言葉と同じように…

 人のためにどこまで尽くせるか、私利私欲を取り去り世の中のために何ができるか。結果よりも、その考えている時間が何より貴いのではないでしょうか。子どもに伝えたいこと…それは一つの答えではなく、長い坂を登ったり下ったり、思考の時間を楽しむことなのかもしれません。


『ルピナスさん』
— 小さなおばあさんのお話 —
(ほるぷ出版)
他人の脳の中に入りこめる脳を育てる

『子どもの脳と仮想世界』
教室から見えるデジタルっ子の今
(岩波書店)
  

 この類の書物が出版されると「エビデンス = 証拠・根拠は?」と問われ批判を受けたり再検証されたりすることが少なからずあります。いかんせんこの分野は科学的な検証が行いにくいのが現状ではないでしょうか。著者は元小学校教諭で 70 年代末よりコンピューター教育を実践され、コンピューター教育のパイオニアの一人です。教師時代に実際に経験された「危惧すべき現状」を膨大な参考文献などにより解説、考察されています。 10 歳まではネットから距離を置き、五感を使った直接体験と本物体験をさせ現実の世界を学ぶことを最優先させるべきだと言われています。私自身、子育て中であり様々な分野の方の講演を拝聴させていただく機会があります。どの方の講演でも科学的なエビデンスを示されてはいませんが異口同音に幼児期の五感を使った育ちの大切さを語っておられました。まさに私にとって全ての講演のエビデンスとなった書といえます。《教師たちが行う国語の読解授業。そしてママが行う本の読み聞かせ。それは脳科学的に定義すれば「他人の脳の中に入りこめる脳を育てる」まさにその営みに他ならないのです》という嬉しい言葉まで添えられていました。思いやりのある子に、優しさはどうやって育めばいいのかと迷い戸惑い、そして間違いのない確実な方法を知るすべもなく現在まできてしまいました。《読み聞かせ大好きママ》は子ども脳が「心のひな形」を学ぶ手助けをしています。これからは自信を持って絵本の中の悔しさ、哀れさ、喜び、感動を一緒に体験し子どもの心を育てていると言えそうです。

 虫の声を聞きながら、家族みんなで豊かな時を過ごしたいものです。今、植えた種は春には必ず芽を出します。今して今、結果が出ることばかりを求めずに子どもを信じ待つことも大切です。どんな心になるのか…種だけは蒔き続けていたいと思います。

(ますたに・ゆうこ) 


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