こども歳時記

〜絵本フォーラム第57号(2008年03.10)より〜

子どもたちの目が輝くとき 

 奈良に春を呼ぶ東大寺の「お水取り」が終わる頃、子どもも大人も新しいスタートをきる季節を迎えます。

 最近、地球温暖化、生態系の変化、いじめ、悲惨な事件など、私たちをとりまく社会は、「日進月歩」ならぬ「秒進分歩」のスピードで動いています。社会の発展には「スピード」が重要な鍵なのかも知れません。確かに、私たちの生活は快適で便利になってきました。しかし、その代償も払わざるを得なくなっているのが社会の現状のように思われます。

 そこで、提案です!ちょっと立ち止まって、子どもたちと空を、風を、自然を感じてみませんか?「はる、なつ、あき、ふゆ」と移りゆく季節を感じたら、手にしたい一冊の絵本があります。『木のうた』(イエラ・マリ/作、ほるぷ出版)です。この絵本は、一本の大きな落葉樹と、この木と関わって生きる小鳥や動物たちを通して、うつろう季節や自然界の営みの物語が描かれています。

 ある「子育てサークル」での出来事です。小学校一年生の男の子数人がこの絵本を囲んでいました。ページをめくるたびに、子どもたちの声が響きわたります。新しい発見があったのでしょう。子どもたちの目が輝いています。絵本の中の四季を何度も味わい、楽しんでいるんです。冬眠する動物、春にむかう準備を進める種、新芽、新しい命が生まれ、そしてまた冬の訪れ…。自然のすばらしさ、命の大切さなど、文字のない絵本ですが、たくさんの言葉を伝えてくれます。バーチャルの世界でなく、実際の自然の営みを子どもたちの心に伝えることは、子どもたちの一生に大きな影響を与えるのではないでしょうか。


『木のうた』
(ほるぷ出版)
家族のなかで育まれるもの 

『十歳のきみへ-九十五歳のわたしから』
(冨山房インターナショナル)
  

 さて、「命ってなに?」と子どもに聞かれたら、あなたは何と答えますか。その疑問に答えてくれる本があります。『十歳のきみへ——九十五歳のわたしから』(日野原重明/著、冨山房インターナショナル)。
  日野原重明さんは、みなさんもよくご存じの 96歳の現役医師です。年令からは想像できないほど多忙な日々を送られているそうですが、十歳の子どもを相手に「いのちの授業」をされています。
  まずはじめに、子どもたちに聴診器で自分たちの心臓の鼓動を聴いてもらい、「ドッキン、ドッキン」と規則正しくうつ心臓の音を実感してもらうそうです。すると、みんな驚きの声をあげるそうです。その後、「いのち」とは人間に与えられた時間でもあること、そのいのちをどう使うかが大切であること、どんないのちもかけがえがないこと、だからどんないのちも粗末に扱ってはいけないことなどを話されると、子どもたちは真剣に聞いてくれるとのことです。
  さらに、「家族のなかで育まれるもの」として、人間の「芯」になる部分は、家族のなかで過ごす膨大な時間の中でつくられ、その時間は実は人生の大きな宝物、とも書いておられます。

 新しい季節。時間をどう使うかは、私達一人ひとりに委ねられています。

(いけだ・かずこ)


前へ次へ