帽子、虫捕り網、虫かご。私が思い描く夏の原風景には必ずこの夏の三点セットを携えた子どもたちが登場します。私が幼少だった昭和 30年代は町の中でも子どもたちが安心して遊べる広場が何箇所もあり、私は「いってきまぁす!」といって出かけたらお腹がぺこぺこになるまで外で遊んでいたものでした。のどかで豊かな外遊びをたくさん経験できた幸せな世代だと思います。今はどうでしょう? 子どもたちだけで安心して遊べるところが少なくなっています。今を生きる子どもたちにとっては、自然に親しみ太陽の下で遊ぶということが日常ではなく、きめられた場所で大人の管理のもとで活動するというスタイルが一般的になりつつあるようです。ですから、少なくなったとはいえ、はらっぱでバッタやテントウムシ、カマキリに出会った時、そして虫たちを追いかける子どもたちに出会った時などは、なんだかほっとしてちょっと嬉しくなります。
『わたしのワンピース』(にしまきかやこ/さく、こぐま社)という絵本があります。うさぎの女の子が真っ白な布をミシンでカタカタ縫ってワンピースを作ります。できたワンピースを着てお花畑を散歩するとワンピースが花模様になります。そして雨に降られたら水玉模様にと、お散歩の場面にあわせてどんどん模様が変化します。
私は2?3歳の子どもたちとこの絵本を一緒に読むことが多いのですが、ページをめくるたび子どもたちの目がキラキラするのが嬉しくてたまりません。私自身、繰り返し繰り返し、何度読んでも「つぎは?つぎは?」とドキドキする気持ちはそのたび新しいのです。このドキドキ感は絵本を読む醍醐味です。
お散歩・お花畑・雨・草の実・小鳥・虹・星…展開するモティーフは幼い子どもにとって身近で親しみやすい素材です。実際に見たことがある、触れたことのあるものは言葉や絵からイメージが拡がりやすいのです。逆に実際には見たことのないもの、触れたことのないものも絵本を通して知ることができます。そして後に実物を知るということもあるでしょう。体験と追体験を繰り返すことでそれは子どもにとってひとつの経験として獲得され、ストックされていきます。 |