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特別編 「絵本フォーラム」51号・2007.03.10 |
『絵本セラピスト』を目指して | |
上山恵美子(うえやま・えみこ)
1972年、大阪教育大学卒業。西宮市内の小学校に12年間勤務。退職後、自宅に「あおぞら文庫」開設。 2006年、湊川短期大学 幼児教育・保育学科専攻科修了。 カウンセリング実務士、ピアヘルパー資格取得。第3期「絵本講師・養成講座」修了。絵本が寄り添ってくれた 絵本が寄り添ってくれた
もう30年以上も昔、若い教師だった私はある研究会で“絵本の読み聞かせ”に出会い、絵本研究家の高山智津子先生から、赤ちゃんからの読み聞かせの楽しさを、教育士の岸本裕史先生から、見えない学力としての読書の大切さを学び、教室で読み聞かせを始めた。 柳田邦男さんの著書との出会い
そんな自分の体験や絵本への思いは、柳田邦男さんの著書『砂漠でみつけた一冊の絵本』に出会って確信に変わり、さまざまな苦しい−(マイナス)の体験を+(プラス)にして、何か自分にできるのではないかと考えた。それは何か。私が苦しかったとき、一番望んだことは、自分の悩みやつらさをだれかに聞いてほしいということだった。そうだ。大好きな絵本を媒介にして、しんどい人のお話を聞き、明るい気持ちになってもらえるお手伝いができるのではないか。 「絵本講師・養成講座」との出会い
短大を終えたら、3期生として講座を受けたいと願っていたので、受講が実現したとき、私には使命がある、これは私が立ち直って社会に復帰するラストチャンスだと思い、学びへの情熱を注いで講義のすべてを聞き逃すまいとノートをとり、レポートを書いた。 まず、テキストがあることに驚き、絵本や読み聞かせの歴史、絵本講座の組み立て方、よい絵本の選び方、読み聞かせの注意点など、5回の講座はすべて、絵本の基本的な知識を得、改めて絵本の奥深さに触れる貴重な機会であった。芦屋まで電車で行けることも、学ぶ喜びと重なって、その日が待ち遠しかった。 読み聞かせは世直し
講座で一番感銘を受けたのは、「今の時代、なぜ読み聞かせが必要なのか……。家庭での読み聞かせは、今の歪んだ社会を正常に変える世直しの一つである。そのチョウの小さな羽ばたきを大きな竜巻に」という視点だった。 それまでは、読み聞かせは家庭、学校での楽しみ、教育的なものとしか見ていなかった。 活字離れの進む子どもたちの読書状況、デジタル育児の危険性、テレビやビデオが子どもたちの身体、知的能力、精神に悪影響を及ぼし、不登校や引きこもり、青少年の犯罪にまでつながること。絵本の読み聞かせは、親の温かい声でぬくもりを感じながら、楽しさを共有し、デジタル育児では育たない心・情・人格の基礎をつくり、言葉の獲得や疑似体験によってコミュニケーション能力や想像力を育てる。今の時代に一番大切な、親の手間暇をかけた愛情が子どもに伝わる。狭い見方しかできていなかったが、読み聞かせを政治、経済、教育などの社会状況、時代背景から大きな目でとらえることを学んだ。 また、未来を創る子どもにこそいいものを……と、作家、画家、編集者、出版社の方々が絵本の制作に真摯に取り組まれている姿に感動。その苦心や努力が作品から伝わって、私たちに喜びや励ましを届けることを理解した。作者の方、編集者の方から直接、興味深く、人間味あふれるお話を聞いた後は、絵本をもっと丁寧に、創り手の気持ちを考えながら読むようになり、そんな楽しみも増した。 講師の先生からは人間性、生き方を学んだ。 中川氏からは、読み聞かせに対する心構えと、自分自身を厳しく律すること。飫肥氏からは、悠久の自然・生命・理(ことわり)――よい絵本の三大要素を。とよた氏からは、生活のすべてが絵本の題材という創り手の心を。浜島氏からは、真・善・美という三つが一本の矢のように通った強さを。片岡氏からは、迫害を恐れず、命がけで真実を証明し、行動で知らせる勇気を。梅田氏ご夫妻からは、四国の清流のような豊かな生き方と、子どもを丸ごと受けとめる優しさを。吉井氏からは、ロングセラーを出版する会社の良心と絵本への愛情を。そして、森ゆり子さんからは、ゆったり落ち着いた語り口からにじみ出る「絵本と子育てセンター」と私たち受講生への愛情と献身を……。すべて、言葉であらわせない大きな生命をいただいた。毎回、受講生全員のレポートを読み、助言をくださる藤井先生のご苦労や喜びを想像し、スタッフの皆様への感謝の気持ちで、より一層、絵本の勉強をしたくなってくる。 こんな場所にも絵本があったらと願うようにもなった。絵本など、読むことはおろか、買うゆとりさえない家庭に、リストラされたお父さんに、ホームレスの人、孤独な人、世の中から取り残され、出口の見えない人たちのそばに絵本があれば……。絵本には無限の可能性がある。私も夢に向かって努力を続けたい。皆さん、ご一緒に講座で学びましょう。 |