絵本のちから 過本の可能性
特別編

「絵本フォーラム」46号・2006.05.10
絵本を高齢者のものにも
「絵本講師・養成講座」を受講して
大西 勝(絵本講師)
大西 勝(おおにし・まさる)


1.受講は、私の生涯学習のスタート!


 今、私は70代の前半。40年近く、真っすぐ学校教育に。そして10年、請われるままに社会教育に携わる。これでよいのだろうか。現在の私が「やりたいこと」に身を投じる――私の生涯学習に飛び込むのもよいのではと、インターネットを手がかりに物色した。あった。「絵本講師・養成講座」だ。世代的にはやや縁遠い分野だが、私には大学時代から興味・関心のあった分野だ。すぐに申し込んだが、満杯。こんなに「絵本講師・養成講座」に関心を持つ人は多いのか。私の年にして初めて「やりたいこと・やってみたいこと」が見つかったのに、残念。1年待つ。決心してからの1年は長かった。
 そしていよいよ、2005年4月スタート。山陰の松江から年5回の芦屋市通いと、隔月の三つ四つのレポート提出はかなりハード。だが、私よりずっと若い人たちとの共学。充実し、年を忘れた1年であった。出会いとは不思議なもの。1年一緒の受講で連帯感が生まれ、心強い「絵本で子育て」ネットワークが期待できそうだ。遠隔地に住む私には、一刻も早く、確実な情報が得られる組織網が待たれる。「絵本で子育て」センターにはお世話をかけるが、よろしくお願いしたい。
 さあ、私も「絵本の世界」を広げる社会活動に乗り出す準備を!


2.「絵本講座」は「読み聞かせ」の宝庫だった


 「『絵本講座』を受講して何が一番よかったか?」と問われれば、「絵本を読み聞かせてもらったこと」と即答できるほど、この講座は「読み聞かせ」の宝庫だ。もちろん、「絵本講師・養成講座」だから当然と言えるかもしれないが、多くの講師の方々から「読み聞かせ」をしていただいた。
 絵本は読み聞かせによって「生きる」し、絵と言葉、そして読み聞かせる肉声という三つの総合作用で、聞き手・見手を独自の「宇宙」に誘い出し、遊ばせてくれる。日ごろはお話を聞きたくてもかなわぬ講師の方々が、私を私の「宇宙」に連れていってくださる。しかも、自作紙芝居の自演や、自作絵本、講師みずからが大切にしてきた作品の読み聞かなどもあり、本当に貴重な体験の場、ぜいたくなひとときであった。感謝以外にない。
 純粋に「読み聞かせ」そのものが印象的だったのは、森ゆり子氏の読み聞かせであり、多くの得るものがあった。森氏の読み聞かせは、私が求めている絵本の読み聞かせの原点とも言える。原点――それは素朴で、巧まず、自然体で、飽きず、聞き手・見手をスムーズに絵本の世界に誘う読み聞かせ。この素朴さ、自然体は、私が最も大切にしたいと思うところだ。最近、古典や小説などの朗読CDやDVDなどが盛んに販売され、ラジオやテレビでも頻繁に流されている。メディアに頼ることなく、私のあるがままの自然体で読み聞かせをしていこうと、新鮮な気持ちになったセッションだった。


3.大人の私も絵本大好き人間に


 この講座から絵本の奥深さを知り、以前よりずっと絵本大好き人間になった。これには、自分を正直に出した講師の方々の作品紹介が大きな力になっていると思う。
 とよたかずひこ氏の絵本制作態度に敬服する。絵本や紙芝居の制作動機は、みずからの子育てから得ておられるという。また、長年、近所の子どもたちとの三角ベース野球に本気で汗を流す。子どもの世界を地でいくとよたさん。「今、ここで、生きて、動いている」子どもとちゃんと向き合うとよたさん。こんなとよたさんが作品に生きている。『かくれんぼももんちゃん』『ももんちゃんえーんえーん』(以上、童心社)『でんしゃにのって』(アリス館)など、ゆっくり手にする。思わず笑みがこぼれたり、生き生きした擬態語・擬声語のリズムに乗って老体を動かしたり、すっかり作品の中へ。こんな私はおかしいかな?
 『ガンピーさんのふなあそび』(ほるぷ出版)も飫肥糺氏が読んでくださった。自分で読んだだけだったら、ここまでガンピーさんにのめり込んでいないのでは……。なんと読み聞かせの威力の大きいことか。豊かで美しい自然の中で、おおらかなガンピーさんの愛に包まれて育つ動物や子どもたち。長年の体験で培った教育観が崩れそうなほどの衝撃を受ける。子どもはゆったりと広い心で接することが大切だと、今さらながらに感じる。しかし、ガンピーさんにはそんなことも頭にないのかも……。現在、私は『ガンピーさんのふなあそび』のとりこになっている。これはずっと続くのでは……?
 中川正文氏も、体調が悪いにもかかわらず、自作『ごろはちだいみょうじん』(福音館書店)を読んでくださった。「あれっ、方言?」と一瞬。だが、すぐに溶け込み、聞き終えると「いいなぁ……」と思わず漏らす。「いたずら者のたぬきのごろはち。村人とごろはちのかかわりはユーモラスで、悲しい。鉄道開通の日、ごろはちは村人を守ろうとして死んでしまう……」「……めでたし、めでたし。というたかて、なにがめでたいのやろ」
 『ごろはちだいみょうじん』は40年近くも読み継がれているという。これだけで感動。私の絵本講師としてのテーマ「絵本を高齢者のものにも」につながる絵本だ。うれしい限り。我が家の食卓には『ごろはちだいみょうじん』が居座るようになった。
 この他、講座では多くの絵本が取り上げられ、年を超えて絵本大好き人間が誕生。これほど大きな生涯学習のスタートになるとは夢にも思わなかった。

 「絵本で子育て」センターの皆さんを初め、第1期修了生の多くの方々に支えられて修了証書をいただくことができました。感謝いたします。特にご多忙の中、つたない課題レポートをいつも励ましてくださった藤井勇市氏に、末筆ながら、お礼申し上げます。ありがとうございました。

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