遠い世界への窓

東京大学教養学部非常勤講師
絵本翻訳者

新連載

遠い世界への窓

第18回の絵本

『ミライノイチニチ』


ミライノイチニチ おはなしの主人公は、遠い未来に住んでいる小学生の男の子。名まえは、「ミライ」です。家族は、お父さんと白いワンちゃん。お母さんはどうやらお泊りでお出かけ中です。  

 毎朝、ランドセル型のロボットがミライを起こしてくれます。最新式のような懐かしいようなちょっと不思議なベッドルームで目覚めます。何をするにも、ランドセル型ロボットは、ミライの相棒。忘れもの確認もしっかりしてくれて、学校へ向かうときには、背中にランドセルとして収まります。


『ミライノイチニチ』(コマツ シンヤ/作、あかね書房)

 お父さんは会社へ、そして、ミライは学校へ。「よりみちしないで かえってくるんだよ」「はーい、いってきまーす」今の私たちと変わらないやり取りに、何だかニッコリしてしまいます。未来の街は、とってもスタイリッシュ。家や道路が、上にも下にも広がっています。道をのんびり歩いている人もいれば、アイススケートのような靴で、スイスイすべっていく子どもたちも。空には、バイクや自転車や車みたいな乗り物が、フワフワと浮いています。

 ミライと友だちが向かうのは、「キョウシツ」のりば。空を飛んで、ミライたちを学校まで運んでくれる移動教室です。空飛ぶ「キョウシツ」から眺める街の風景は、なんとも壮観。これが遠い未来の夢の街なのかなあ。

 私たち大人には、ポジティブな未来を想像するのって、とても難しいですよね。この文章を書いている現在は、新型肺炎コロナウィルスが世界各地に感染を広げていて、日本でも10人近い感染者の方が確認されたところです。今年の夏も猛暑が予想され、東京オリンピックでも熱中症が続出しないか心配だし、秋にはまた猛威を増した台風がおそってきて……と、この先1年を考えても、不安材料ばかり。では、10年後の未来、30年後の未来はどう? 100年後、500年後の未来は……?

 「未来のことを想像してみる」ワークショップをしばしば開くという、多文化共生や教育学の専門家の方に、先日お話を伺いました。未来の姿を想像してみてって言われると、最初はみんな戸惑うけれど、「では200年後の未来は?」と、少し遠くに時代を設定してみると、ひとつふたつと意見が出はじめ、やがていろんな未来像がとどまることなく湧き上がってくるそうです。

 『ミライノイチニチ』の見返しには、「未来の図鑑」があって、絵本に描きこまれた、未来のハイテク装置が解説されています。「無重力体育館」は是非とも行ってみたいし、健康状態まで映し出してくれる「健康チェックミラー」も絶対欲しい。きれいな酸素をたくさん出してくれる「サンソノキ」や、頭で想像した料理が実際に調理される「イマジナリーフード」が本当にあったら、環境問題も食糧問題も解決されるかもしれません。

 私たちが「未来」に託すのは、夢や願い、そして、今現在、立ちはだかっている難問の数々が、もしかしたら高度な科学技術の力を借りて解決しているのではないかという期待なのかもしれません。そのとき、人間の意思決定の力は、どんなふうに未来の舵を取るのでしょうね。

 さて、学校へ行ったミライは、どうしているでしょう。「無重力遊泳」の授業から、おいしそうな「給食レストラン街」にいたるまで、ミライの1日はとにかく楽しそう。 放課後に寄り道した「宇宙空港」では、さまざまな民族や人種どころか、あらゆる生命体が行き交っているようです。そして、ミライはここで、「出張」から帰ってきたお母さんを出迎えます。

 お母さんの「出張」先は、どこだったのでしょう。そして、ミライたちが住んでいる街は、どこにあるのでしょう。この絵本には、たくさんの夢や願いが詰まっているとともに、深くて重いメッセージも投げかけられています。

 「遠い世界への窓」の連載も18回目。ちょっと遠くまで来すぎてしまったかもしれません。

(まえだ・きみえ)


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