えほん育児日記
〜絵本フォーラム第129号(2020年03.10)より〜

『届け続けよう、絵本の力を信じて 』

 花房 果子(絵本講師)

花房 果子 絵本講師としての活動も早いもので9年になります。息子も小学校6年生になり、まもなく卒業。高学年になると絵本の読み聞かせをする機会も減ってきましたが、最近は岩波書店のグリム童話を少しずつ一緒に読んでいます。大人への入り口に立つ今だからこそ、気づきも色々あるようです。母として子育ての悩みも楽しみもこれまでとは違った体験も味わえるのかなと思っております。

 さて、私自身はありがたいことに絵本講師として、たくさんの絵本を携え保育園や幼稚園、文化教室などで絵本講座をさせていただいています。小学校では絵本の読み聞かせサークルに入り、月1回、子どもたちへの読み聞かせを行ってきました。1年生か6年生までが集まるので、どんな絵本がよいのか、毎回頭を悩ませてきました。他のお母様方から、どんな絵本を読んだらいいのかという質問をいただくこともあり、アドバイスさせていただいたのは、「季節や学校行事など子どもが親近感のもてる内容」や「低学年の子に理解できる内容の絵本」「遠くの子にも見えやすい絵本」などです。

 お母様方から、反応がよく、いわゆるウケル本を教えてと、言われることもあります。子どもの過剰な反応や笑いを求めて読み聞かせをすることを目標にするのではないということと、本屋さんで人気の売れている絵本が必ずしも良い絵本であるとは限らないということもお話しさせていただきました。

  また、読み聞かせ活動をしている方からは、高学年に響く絵本を教えてほしいと言われることがよくあります。高学年だから、難しい絵本を読まなければいけないと思うのではなく、低学年でも楽しんでいるような絵本でも良いのですよとお話ししています。学校に行って思ったのは、今の子どもたちは昔話をあまり知らないという現実です。桃太郎、金太郎、浦島太郎など、名前は知っているけど、どういうお話だったかくわしく知らない子もいます。昔話には、先人から伝えられてきた人が生きるための知恵や力強さが描かれているお話が多いですが、そういう日本の昔話を高学年のお子さんにもぜひ読んであげてくださいとお伝えしています。近年アジアの昔話、モンゴル、中国、韓国などの絵本も多く出版されています。これらの絵本は、おはなし会でもよく読みます。日々、国と国の関係も悪化したり、争いが起こったりと私たちを取り巻く環境も変化し、不安に駆られることも多いです。しかし、絵本には国境はなく、生まれた場所は違っても同じ人間だということ、それぞれに精一杯生き、生活を営んでいるということを教えてくれます。

 毎年絵本講座をさせていただいている保育園では先生から、保護者の方たちが忙しく、絵本をおうちで子どもに読んであげていないというお悩みをよく聞きます。絵本の展示販売会をしても、「絵本は高いから」と買ってくださるのはわずかということです。日本では今子どもの貧困が問題になっており、絵本を購入することが家計に響くというご家庭も多いことは確かです。また、0歳児さんに読み聞かせをしていると、絵本の画をたたいてクリックしたり、スワイプしたりする子どもがいるということにびっくりしたとも仰っていました。

 ご家庭での親子の読み聞かせの機会が減っているならば、周りの大人たちがその役割を担うことがより大切になってきているのかもしれません。子どもたちを取り巻く環境が複雑に目まぐるしく変化している今だからこそ、子どもたちが自分にとって生きていく為に必要なことは何か、見極めていく目を養う為にも、良質な絵本を一人でも多くの子に届けられるよう、微力ながら長く活動を続けていきたいと思っています。
(はなふさ・かこ)

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