子育ての現場から

子育ての現場から 10

地域全体があそび場!自然遊びから心をはぐぐむ


藤本 正子

認定こども園 照福こども園

藤本 正子 兵庫県の北部、山林や田畑に囲まれた自然豊かな場所に照福こども園はあります。 「この環境を生かした保育がしたい」との思いから、自然の中での学ぴを大切に保育をしています。

 園児たちはまるで地域全体が園庭であるかのように、周りに広がる田んぼや畑、川などで生き物の観察をしたり、草花に触れたりして遊んでいます。 職員の私たちは、子どもたちがその中で感じる発見や気づきに寄り添いながら、 一人ひとりの思いを支えることを大切にしています。

 地域の方の協力を得て、共同でつくつている「みんなの畑」で野菜 (ジャガイモ・さつま芋・とうもろこし・岩津ネギ・きゅうり・なすぴ・トマト・枝豆・黒豆など) を育て、田植えから稲刈りまで本格的な農業体験もしています。

田植えのたんぼ

 田んぼの中に入つて自分で苗を植えたり、鎌を持つて収穫したり、貴重な体験をすることで、生きる源である食についても、子どもたちが実感として受けとめているようです。 5歳児が、炊き上がつた新米を自分で握つて白むすびをつくり、それを味わう時の表情は言葉では表現できないほど素敵です。

 日々の保育については、 職員間で何度も話し合つています。いろいろな視点で意見交換をすることで、それぞれの保育士の振り返りにもつながつているようです。話し合い以外でも、園児の遊びの中から保育士が感じたことを「エピソード記録」として毎日紙に残して読み合い、子どもたちの様子についての気づきを保育士間で共有しています。「エビソード記録」の中から一つ紹介します。

 保育士のとなりでH君とS君が『おむすぴさんちのたうえのひ』 (かがくいひろし/作・絵、PHP研究所) の絵本を一緒に見ている。 まだ字が読めない二人は絵を見ながら思つたことを話している。 (たくさんのおむすぴの具材たちが田植えをしているぺージを見ながら)
S「みてーめっちやいっぱいで、やつとるでー!」、H「どろんこもしたんかなあ?」、S「そりゃしとるやろう!」、 (タコとイカが田植えをするぺージをめくりながら)S「ぎやー!タコとイカやー! そりゃめっちや早すぎるやろ。でも機械のほうが早いはずやで。だつてガシヤンガシヤンつて一気にやるやろ!』、H「そやで!僕のところもやつたで!」、 (おむすぴさんと具材たちがお風呂に入るぺージで) H「みて!おんせんや!」、「なんでぽくらーと一緒なんや?」(裏表紙のおむすぴを供えるシーンを見て)、S「なぁ〜これつて田植えのまえか?あと?」、H「えーと、前ちゃう。だつて汚れてないもん」、S「ぽくはあとやと思う。 だつてお米ができてからやろ。おにぎりは」

 二人の会話はしばらく続いた。 家でもお米を作つている実体験が豊富な二人ならではの現実と物語の世界が入り父じる面白い会話。絵本を見ることにより追体験ができ、また、経験を振り返りながらイメージを膨らませ、思いを言葉で伝えあつていた。
自分たちが経験したことは共感し合い、思いが一致したが、最後は結論が出ないまま。 でも、それを押し付けたりするのではなく、それぞれの感じ方で終わっていたので、答
えのなさや自由な感性に改めて絵本の良さを感じた。 (保青士のコメント)

 地域のこども園として、「大人の真心で子どもの心を育てる」という理念のもとに、子どもたちの主体性を大切にしながら心と体が逞し<育つてい<ような保育をしていきたいと思います。

(ふじもと・まさこ)


絵本フォーラム127号(2019年11月10日)より

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