私の絵本体験記

「絵本フォーラム」126号(2019年09.10)より

「くっきりはっきり生き続ける思いで

 富永 惠未 (兵庫県)

とみなが・えみ 絵本と聞いて、一番に思い浮かべるのは『みにくいあひるの子』である。

幼い頃、私は布団に入る時毎晩のように「この本を読んでほしい」と母に頼んでいた。 私にとって、絵よりも文字の方が多い初めての絵本だった。繰り返しこの本を読んでほしいとせがまれる母は少し面倒くさそうだったが、どうしてもそれを読んでもらいたかった。

なぜなら、その本は長くて、母が途中で寝てしまうので話の結末がさっぱりわからなかったのだ。

仲間にいじめられて悲しい気持ちになっているあひるの子の哀れな描写のあたりで、母はいつも力尽きて意味不明な寝言を口走って寝てしまうのだった。私は必死で笑いをこらえて寝ようとするのだが、あひるの子の結末が気になって仕方がなかった。そして次の晩に再チャレンジするのだが……。

毎晩読んでもらっても結末に辿り着けず、あひるの子が最後は美しく大きな白鳥に成長して幸せになるという事を知ったのは、自分で字が読めるようになってからのことである。

最後まで自分でこの絵本を読み切った時は、達成感と話の顛末に大変感動したことを覚えている。今から思えば母には多種多様な絵本を読んでもらった。『はははのはなし』、『スカーリーおじさんの働く人たち』など。

絵本は母との濃厚な思い出となって半世紀近く経った今でも私の中に残り続けている。いつもは家事で忙しい母が、ゆっくりと自分に向き合ってくれる貴重な時間。それを幼心に大きな喜びとして感じることができていたからこそ、今でもその思い出が私の中にくっきりはっきりと生き続けているのだろう。(とみなが・えみ)

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