こども歳時記

〜絵本フォーラム126号(2019年07.10)より〜

絵本を読み継ぐ   (吉澤 志津江)

よしざわ しずえ 町内の保育士や幼稚園教諭を対象に絵本の話をする機会があった。子どものエネルギーを受け止める力のある絵本を、子どもにかかわる専門家として子どもに読んでほしいと話した。

 限られた時間のなかで、『スモールさんはおとうさん』(福音館書店)『めのまどあけろ』(福音館書店)『くんちゃんのはじめてのがっこう』(ペンギン社)など、スタンダードな絵本ばかり紹介した。「ご存じですか?」「子どもの頃に読んでもらったことがありますよね」と呼びかけても、反応が薄い。『スモールさんはおとうさん』にいたってはほぼ皆無、世代間ギャップとばかりは言えない空気に困惑しながら話を進めた。そういえば少し前に、学校司書の方から、「子どもたちは、家庭や保育園でスタンダードな絵本を、案外読んでもらっていない」と聞いていたので、会場の雰囲気に、戸惑いつつ納得もした。

 年間出版される絵本は約1,000点、その中からいい絵本を選ぶのは至難の業だ。作者や出版社で選ぶ方法もあるが、それよりは、いっそのこと子どもに教えてもらいましょうという話をした。それはもちろん、今、目の前の子どもに聞くということではない。読み継がれた絵本は、これまでの子ども達が、次に生まれてくる子ども達のために残してくれた宝物。その絵本の力と、それを受け止める子どもの力を信じてほしいと話した。また、新しい絵本ばかりを子どもに読んでやる必要があるのだろうかとも問いかけた。600万部発行されている『いない いない ばあ』(童心社)だって、赤ちゃんにとっては新しい絵本ではないのか。日々成長する子どもにとって、昨日読んでもらった本も、今日生まれ変わるかもしれない。

 研修のあとの感想は、「古くからある本は、退屈だろうと思ってなるべく新しい本を選んでいた」「棚にある絵本を適当に選んで読んでいた」「子どもの反応がほしくて声色を使っていた」「読んだ後、いつも子どもから感想を聞き出していた」「昔話のことがとても参考になった」など、率直なものばかりだった。

  保育や幼児教育の現場の方たちに、絵本の奥深さや、読み方選び方が、思いのほか伝わっていない現実を目の当たりにした。現場の大人を、絵本の豊かな世界に引き入れることができれば、大人たちが、義務としてではなく楽しんで、たくさんではなくたっぷりと、園児の時代に出あってほしい本を子どもに読んであげられれば、かかわる子どもたちの喜びに結びつく。

  「もっと詳しく、できれば続きを聞きたい」との感想もいただいた。子どもと接する方たちに、私たちができることが、まだたくさんある。
(よしざわ・しづえ)

 



にじ

『スモールさんはおとうさん』
(ロイス・レンスキー /ぶん・え、
わたなべ しげお/やく、福音館書店)


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