こども歳時記

〜絵本フォーラム124号(2019年05.10)より〜

体験が育む 子どもの理解   (栗本 優香)

くりもと ゆうか 太陽がまぶしい季節になりました。水遊びをする子どもたちの歓声、キラキラはねる水しぶき、そんな光景を目にすると、こちらまで楽しい気分になってしまいます。

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 ところで皆さんは、虹はどうやったら見ることが出来るのかを知っていますか? その答えを教えてくれる絵本があります。『にじ』(さくらい じゅんじ/文、いせ ひでこ/絵、福音館書店)です。読みすすんでいくと、虹は太陽を背にして立った時、水しぶきや霧の中に見つける事ができる、ということがわかります。絵本の中に出てくる男の子は、雨上がりの空に虹を見上げ、疑問や好奇心を膨らませます。公園の噴水に映る虹も見つけますが、反対側へ回ると虹は見えなくなってしまいました。そんな男の子に、お父さんは洗車をしているホースで水をまきながら、先ほどのように教えてくれるのです。

 最近、日常のちょっとした疑問を5歳の女の子が教えてくれるテレビ番組が人気です。子どもの頃は、誰もが色々と素朴な疑問を抱いていたはずなのに、いつの間にか大人は、そんなことはすっかり忘れてしまっています。そして日々の忙しさにかまけて、物事の表面だけをすくって解ったつもりになっていたり、子どもの問いかけに対しても「そんなの常識だ」とか「当たり前だ」と言っていたり……。だからこそ、こういった番組が子どもたちに支持されているのかもしれません。『にじ』の絵本もそうです。静かに、子どもの疑問や好奇心に寄り添い、一緒に立ち止まって考え、さり気なく伝えてくれる絵本です。

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 小学5年生の娘が小さかった頃には、雨上がりの空に虹を見つけては、親子でベランダから眺めていた事を思い出しました。ベランダで抱っこした娘の、汗ばんだ小さい身体のぬくもり、雨上がりの蒸し暑さは、私の記憶の中に色濃く残っています。そんな風に、蒸し暑い中で目にすることも多い虹ですが、この絵本は、眺めているだけで本当に涼しく感じられ、夏にぴったりの1冊です。画家のいせひでこさんの美しい青色の世界が、読み手に涼しさをもたらしてくれます。

 絵本の最後のページに《もう、ぼくはしっている。》というセリフがあります。男の子自身の体験と、お父さんが教えてくれた知識と、それらがあって男の子は初めて“虹を知っている”と自信をもって言えたのではないだろうかと思います。こんな風に、自分自身の体験に根差した知識や理解が、たとえ大人の目には映らなくても、子どもの内面に音もなく積み重なっていくことに、喜びを感じられる大人でありたいものですね。

 子どもたちにとって、この夏も、小さな体いっぱいに自然を感じ、興味・関心を湧き立たせることのできる季節となりますように。
(くりもと・ゆうか)

 



にじ

『にじ』
(福音館書店)


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