新連載
遠い世界への窓
第13回の絵本
『もっとおおきな たいほうを』
あたらしい時代がいよいよ始まりましたね。世界には、その地域の文化・宗教に由来する、いろんな暦がありますが、「元号」を外国の友だちに説明しようとすると、「天皇暦」とか「皇帝暦」とか訳すはめになります。そのうえ、「天皇の即位で始まって、逝去とともに終わるカレンダー」なんて説明しようものなら、まるで古代や中世の王国みたいだと本当にびっくりされてしまいます。それでも、「昭和」や「平成」が、千年以上にも及ぶ「元号」の歴史とはまた別に、現代の私たちの生活や人生になじんでいるのは改めて不思議なことですね。
さて、『もっとおおきな たいほうを』の主人公は、ある王国のおうさまです。おうさまの自慢は、先祖代々伝わる「りっぱなたいほう」でした。おうさまは、これを撃ちたくてしかたありませんでしたが、せんそうがなかったので、これまで撃つことができなかったのです。
なんだか物騒な物語のはじまりですが、この絵本を創られた二見正直(ふたみ・まさなお)さんの絵は、とってもユーモラス。それに、おうさまの自慢のたいほうときたら、三輪車ほどの大きさの、おもちゃみたいなたいほうなのです。
ある日のこと、いよいよ、たいほうを撃つチャンスがやってきます。「たいへんです、おうさま。かわで かってに さかなをとっている キツネが います。」この川でとれるピンクのさかなが大好物だったおうさまは、さっそくたいほうをもって勇んで出かけて行きます。川の向こう岸に向けてたいほうを撃つと、3びきのキツネはあわてて逃げて行きました。おうさまは大満足です。
さて、ここからが本当の物語のはじまりです。すたこらさっさと逃げていったキツネたちは、あろうことか、おうさまの自慢のたいほうよりも、もっと大きなたいほうを押して、やってきたのです。おうさまはあわててお城へ逃げて行きました。
くやしくて仕方ないおうさまは、「あれより もっとおおきな たいほうを つくるのだ」と家来たちに命じました。そして、ようやく出来上がった大きなたいほうをもって川岸にやってきました。キツネたちが逃げていったのも束の間、なんと3びきは、さらに大きなたいほうをもってきて、こちらの川岸へ向けたのです。それからのおうさまは、もう必死です。「も、もっと おおきな たいほうを つくるのだ」と何度も叫んで、キツネにまけないくらい大きなたいほうや、派手なたいほう、面白い形のたいほうを次々と作らせます。けれど、どれもキツネのたいほうには、てんでかないません。ところが……キツネたちのたいほうは、どれも、見かけだけ。インチキなにせものだったのです。どうやって作ったかって? そりゃあ、相手はキツネですからね。
こんなに一生懸命、家来たちに作らせたのに、あの苦労はなんだったのでしょう。使うあてもないヘンテコリンなたいほうの山をみて、おおさまはがっくり膝をつきます。
この絵本を読んだ子どもたちは、おうさまのたいほうの使い道をみて、大喜びします。こんな素敵なたいほうがあったら、どんなにいいでしょう! でも大人たちは、同時に、深く考え込んでしまいますよね。私たちが暮らしている世界は、だれに向かってたいほうを撃とうとしているのか。何のためにたいほうが必要なのか。いったいどれほどのたいほうを作ろうとしているのか。
現代の世界で起きているさまざまな紛争や内戦は、宗教や民族の違いから生じた争いではないそうです。そうではなく、銃弾が飛び交いミサイルが投下される事態が起きた時に、急に宗教や民族の違いがクローズアップされ、戦争の継続に利用されていくという構図がたびたび指摘されています。
「令和」の時代に、私たちには何ができるでしょうか。
(まえだ・きみえ)