えほん育児日記

   
母になった喜びとダウン症という衝撃


~絵本フォーラム第124号(2019年05.10)より~  第6回(最終回)

わたしの子育て1 幼稚園児の娘を膝にのせて絵本を読み聞かせしていると、ふと、私は子ども時代にこんなにゆったりした時間を母と過ごしたのだろうか、という疑問が湧いてきました。両親に愛情を注いでもらって育ちましたし、第一子の私は弟が生まれるまで母の膝を独占していたはずです。でも、2歳9ヶ月で「お姉ちゃん」になった時から母の膝は二人の弟たちのものでした。母にしっかりと甘えた記憶がない長女の私が、今、娘から母子の濃密な時間をもらっているのだ、と気づいた時には涙が溢れ、なんとも満ち足りた気持ちになりました。  

 娘に読み聞かせをするようになってから、私が子ども時代に読んでいた絵本が残っていないか実家で探しました。すると段ボールの中に『ぐりとぐら』(なかがわりえこ と おおむらゆりこ/さく、福音館書店)、『もりのなか』『またもりへ』(マリー・ホール・エッツ/ぶん・え、まさき るりこ/やく、福音館書店)が眠っていました。どれもシミだらけでボロボロです。きっと他の絵本は綺麗なまま他へ貰われていったけれど、この三冊は汚いから残ったのでしょう。≪ぼくらの なまえは ぐりと ぐら≫で始まるぐりとぐらの歌や、≪「よろしい、なかなか よろしい」と、としとったぞうは いいました≫など何度も繰り返されるフレーズは、この歳になっても空で言えます。娘のおかげで、これらの絵本と数十年ぶりに再会することができました。

  『もりのなか』で最後に≪ぼく≫を迎えに来るお父さんの言葉は、読むたびに目頭が熱くなります。子どものときには何とも思わなかった言葉が、親の立場で読むと全然ちがう意味を帯びて聴こえてきます。動物たちとかくれんぼしているのだと話す≪ぼく≫に、その想像の世界を否定することなく、≪「きっと、またこんどまで まっててくれるよ」≫と言える、そんな素敵な親でいたいな、と思います。

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 娘は今春、地域の小学校の6年生になりました。学校が大好きで、朝は集団登校し、放課後等デわたしの子育て2イサービスを利用しない日の下校は一人で15分の道のりを歩いて帰ってきます。  

 下校については最初、私が迎えに行っていました。でも、4年生になって自信がついたのでしょう。「一人で下校する」と宣言して、一人で帰ってくるようになりました。毎週通うスイミングスクールへも今では一人で行っています。

  入学当初から支援学級に在籍していますが、国語と算数、それに支援学級独自の「なかよしタイム」以外は全てクラスで過ごしています。娘はクラスの一員として日直や係の仕事をし、友だちと一緒に先生の話を聴き、給食を食べ、掃除をしています。時には仕事をさぼって友だちに叱られ、泣くこともあるようです。クラブや委員会活動もして、運動会では組み体操をやり、学校のおまつりではクラスのお店の呼び込みをしました。同じ空間で友だちと共通体験を積み重ねることが娘の自信を育んでいます。子どもの心は子どもの中でこそ育つのですね。

 小学校では自分の考えを人前で発表する機会が多くあります。授業参観ではたくさん手が挙がって、臆することなく発言する子ども達の姿を見ることができます。私の小学校時代とは教室の空気がずいぶん違うなあ、と感心します。そんな教室で過ごしているからでしょうか、娘は自分の意見をしっかりと言う子どもになりました。思いも言葉も出すことで豊かになっていきます。

「ねえねえ、お母さん、聞いて」とよく言ってくる娘。私はできるだけ笑顔で聞くようにしています。

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 子育ては親育ち。娘と一緒に私もいろんな体験をさせてもらっています。子どもを地域で育てながら、親の私が地域の皆さんとつながり育ててもらっています。  

 一年間、私たち親子の11年間の歩みのふり返りにお付き合いいただき、ありがとうございました。障害のある無しに関わらず、全ての親子が楽しく自分らしく生きていける世の中でありますようにと願いながら、連載を終えたいと思います。
(たもと・ゆきえ)

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