私の絵本体験記

「絵本フォーラム」124号(2019年05.10)より

「無力感が消えた」

横田 舞   (茨城県)

横田 舞 赤ちゃんが産まれました。赤ちゃんはいつも泣いてばかり。「お腹が空いたの?」「おむつが気持ち悪いの?」聞いても赤ちゃんからの返答はありません。「今日は蝉がたくさん鳴いてるね」「今ね、夕飯の人参を切ってるんだよ」とりあえず話しかけてはみるけれど、コミュニケーションを取れている実感がなく、なかなか言葉が出てきませんでした。赤ちゃんと2人きり、無力感からだんだん言葉を発することにもしんどさを感じ、暗い日々を過ごしていました。

 ある時、「大きくなったら一緒にいこう」と話しかけながら登山雑誌を見せると、赤ちゃんはその本をじーっと見つめていました。本があると自然と心のこもった言葉が込み上げてくることに気づきました。

 そして、20数年ぶりに開いた絵本。味のある絵の数々に癒され、言葉の旋律は声に出すと気持ち良く、読み聞かせは赤ちゃんとの一体感を感じさせてくれました。そして「この子に何もしてあげてない」という無力感はいつの間にか消えていたのです。読んだ絵本で初めて笑ってくれたこと。よちよち歩きで本を引きずりながら近づいてきて、私の前で背を向け、あぐらの中に降ろしてくる可愛いお尻。「さあ、どうぞ」と絵本で覚えた言葉を使ってプレゼントしてくれた石ころ。

 絵本からたくさんの宝物をもらいました。絵本は私にとって子育ての救世主であり、今では生活の一部になっています。同じものを楽しめるという幸せをたくさんの親子に味わってほしいなぁと思います。(よこた・まい)

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