えほん育児日記

   
母になった喜びとダウン症という衝撃


~絵本フォーラム第122号(2019年01.10)より~  第4回

 娘が1歳4ヶ月のとき、親の会で講演会を主催し、児童精神科医・佐々木正美先生のお話を聴きました。  

わたしの子育て2 ダウン症児はゆっくりでもバランス良く育つから、「普通の子ども」として育てなさい。何かができるからという「根拠のある自信」の前に、何もできなくても自分は自分でいいのだという「根拠のない自信」を子どもの中に育てなさい。「根拠のある自信」は世の中に出て自分よりできる人に出会えばたちまち吹き飛んでしまう。「根拠のない自信」の上に「根拠のある自信」を積み重ねるのです、とおっしゃいました。

 では、「根拠のない自信」はどうやって育つのでしょうか。それは、幼い時にお母さんから「あなたはあなたのままでいい」と丸ごと愛された記憶から生まれます。お母さんを信じられる子どもは自分を信じられるようになります。全てはお母さんを信じること、愛着形成から始まる、ということでした。

 自分を信じられる子どもは、友だちと交われます。友だちと交われば交わる程、友だちから学び、友だちに教え、友だちと生き生きと遊び、将来、社会的に勤勉に生きていくことができるのです。

 また、ハイハイやよちよち歩きで少し離れると、子どもは振り返ってお母さんの視線を確認します。その時にちゃんと見てもらえていないと「見捨てられ不安」が沸き上がります。見守られなかった経験をたくさんした子どもは、青年期に非行に走ったり、自己中心的に他者操作をする境界性人格障害になる恐れがあり、ダウン症児でも同じです。そうなれば赤ちゃん期まで戻って育て直さなければならない、ともおっしゃいました。

 子育ての早い時期に佐々木正美先生のお話を聴けたことは幸運でした。講演内容のメモはいつも携帯している手帳に挟んで子育ての指針としてきました。今10歳の娘を見ていると毎日いきいきと楽しそうで、充分に「根拠のない自信」が育っているようです。あまりにも自信満々で図太すぎる時があって、あきれることもあります。

 さて、娘が2歳になったとき、一年後の就園をどうするか考えました。当時住んでいた横浜市では幼稚園が全て私立で、ダウン症児は門前払いされることが多いと聞いていました。我が子を保育園に入園させるために働き出すお母さんもいました。

 2歳の誕生日にやっとつかまり立ちした娘はまだ喃語しか話せませんでしたが、身ぶり手ぶりでハッキリと意思表示し、表情も豊かでした。1歳から通っていたダウン症児の教室では母子分離での集団保育で楽しそうに過ごしていました。絵本もじっと集中して聴いていました。私には、娘が「普通の子ども」として幼稚園で友だちと楽しく過ごせるはずだと思えました。

  3月に近くの幼稚園の2歳児クラス募集があり、娘を連れて申し込みに行きました。前期に在籍しわたしの子育てておけば優先枠で年少で入園できるからです。そこは音楽に力を入れている家族経営の小さな園で、年に数回、地域の親子向け音楽会を開催していました。家族で何度か聴きに行ったことがあり、ここなら、と思いました。

  「ダウン症がありますが、入れてもらえますか?」と尋ねると、園長先生は、「ダウン症児を受け入れたことがない、怪我が心配 とずいぶん後ろ向きでした。でも、私があきらめずに話をしていると、年配の先生が「お試しで入ってもらいましょうよ」と助け舟を出してくださり、申し込むことができました。

 4月から通いだすと、娘は、紙芝居や絵本の読み聞かせをみんなと一緒に座ってじっと聴いていました。手遊びも先生をよく見て一緒にやっていました。なにより自由遊び時間には母から離れて楽しそうに遊んでいました。そんな娘の様子を見た園長先生から「来春4月からは無理かもしれないけれど、他の子どもたちが落ち着く6月頃から通ってもらおうかしら」と前向きな発言をいただいたのです。それまでの子育てを認めてもらえたようで嬉しい気持ちになりました。
 (たもと・ゆきえ)

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