私の絵本体験記

「絵本フォーラム」122号(2019年01.10)より

「大切なことは変わらない」

 成田 直美  (茨城県)

大切なことは変わらない 成田 直美 「お母さん起きて!」私の声に、母はまたゆっくりと、昔話の続きを語り始めます。 「むかしむかし」で始まるお話を、何度聞かせてもらったことでしょう。母の声を聞きながら、その情景を心に描いて眠りについた幼い頃。あたたかな時の重なりは、愛の記憶として私の心にあります。

 祖母の素話を聞いて育ったという母は、その声を忘れないと言います。いつでもその声が、その時がよみがえるのだと。それは、今も母が聞かせてくれるお話の一つです。

  現在私は、生まれ育った自然豊かな地に、夫と3歳の息子、4か月の娘と暮らしています。子どもたちは絵本の読み聞かせが大好き。娘は絵をじっと見つめ、ページを一緒に追いかけ、語りかければ、満面の笑みとなんともかわいい声で応えてくれます。おやすみ前には息子と一緒に絵本を選び、ぴったり寄り添って読んでいます。かつての母のように、時に「ママ起きて!」とゆすられながら。

 ある日、息子が絵本を抱えて娘のところへ。知らぬふりをして耳をそばだてていると、「うさこちゃんが笑っています」と優しく語りかけているのでした。「ブルーナの絵本 がもつ力はもちろんですが、息子の絵本体験と実体験が、うさこちゃんの表情を生み、妹への思いを育んでいることも感じられた出来事でした。

 時代が変わっても、大切なことは変わらない。誰もが豊かな心を育み、深く生きる力を備えている。絵本はそのことに気づかせ、読み聞かせはその力を育んでくれる。わが子と絵本を仲立ちにして育ち合う今、そう願い、信じて実践する日々です。
(なりた・なるみ)

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