こども歳時記

〜絵本フォーラム122号(2019年01.10)より〜

日本の美と心を子どもたちへ   (篠原 紀子)

篠原 紀子 明けましておめでとうございます。新年の行事や風習に、とりわけ日本らしさを感じられる方も多いのではないでしょうか。我が家の娘たちも、毎年お着物での初詣を楽しみにしています。

 

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 私が真っ先に思い浮かべる“日本らしい絵本”は『つるにょうぼう』です。満州で暮らした経験から日本文化の素晴らしさに気づき、表現の道へと進んだ赤羽末吉さんは、多くの昔話の挿絵に情熱を傾けました。特に雪の描写を追求し、スケッチのため度々雪国へ足を運んだとか。湿り気を帯び、重くぽってりとした日本特有の雪景色が印象的です。

 日本では古くから、物語と絵を一緒に楽しむ文化がありました。赤羽さんは平安時代に発達した絵巻物を研究し、その手法を挿絵に取り入れました。墨絵と大和絵を用いた、品格ある日本の美を作品に込めたのです。

 赤羽さんは、子どもにも大人と同じ態度で、絵を通して語りかけます。解る解らないではなく、本質的なものは子どもにも必ず響くはず。絵本から、本物を見る目と心を養ってほしいと願っていたのではないでしょうか。日本の風土や感性を子どもたちに、後世に伝えたいという熱意が感じられます。

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 日本美術の特徴の一つとして、奥行きよりも横の展開を重視することが挙げられます。絵巻物に学んだ赤羽さんは、絵本のなかで物語の流れの表現を深化させました。ただ良い絵を並べるのではなく、絵が語り、物語を引っ張っていく力を持っているのです。

 『つるにょうぼう』では更に、絵が感情の流れを生んでいるように読み取れます。鶴と男の愛情、欲、陰り、後悔、複雑に移ろう情念……人物の表情や背景の筆致から、鶴と男の余情を色濃く漂わせる技量は圧巻です。細部まで描かず削ぎ落とすことで、物事を心で捉え、目に見えないものを匂わせる奥ゆかしさ、これも日本の美意識と言えるかもしれません。

 最後のページ、春ちかい山なみの上を一羽の鶴が飛び去ります。そこに言葉はありません。深い雪の静けさが心の余白と重なり、私たちの胸に波紋を広げるのです。子どもの心にも、その余韻は確かに残ります。『つるにょうぼう』は昔話でありながら、現代に通じる解釈や共感を含み、心理に迫る絵本です。物語の持つ普遍性を、子どもたちも受け取っていると実感します。

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 自国の文化を理解して初めて、他国の文化の多様性を受け容れられます。赤羽末吉さんは、子どもたちに日本の美と心を伝えることで育まれる、新たな伝統を生み出す力に期待していたのかもしれません。それは絵本の大きな使命のように感じます。 年頭にあたり、絵本を通じて子どもたちの未来へ思いを馳せています。
(しのはら・のりこ)



つるにょうぼう

『つるにょうぼう』
(福音館書店)


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