こども歳時記

〜絵本フォーラム120号(2018年09.10)より〜

自分らしく生きていける社会    (舛谷 裕子)

ますたに ゆうこ 3年前のある日、「今度、この絵本を読むので練習のために聞いて欲しい」と言われ、読み聞かせていただいたのが『ふしぎな ともだち』との出会いでした。ページが進んでいくうちに涙が溢れ止まらず、嗚咽してしまうほどでした。「やめようか」と言われたのですが最後まで読んでいただきました。絵本の内容もさることながら、大人になって私だけのために読んでいただいたこと、彼女の優しい声と温かなお人柄が相まって、とても心が揺さぶられました。  

 この絵本は、島の小学校に転校して来たゆうすけと自閉症のやっくんとのお話です。自閉症は先天的な発達障がいの一つで、クラスに2人程度は発達障がいの傾向のある子どもがいるといわれているそうです。私は発達障がいと診断された子どもや、その傾向のある子どもたちと接する機会があります。ある日、突然に雨が降り始めたことがありました。多くの子どもたちは「傘を持って来ていない」とか「外で遊べない」と口々に言いました。そんな中、発達障がいの傾向のある彼は降り出した雨をじっと見ていました。すると私に「雨が降ってきたね」と言いました。「ほんとだね。雨が降ってきたね」と応えると、またじっと雨を見つめ、「お母さんは困ってないかな」と言いました。低学年でまだまだ自分のことしか考えられない子が多いのに、お母さんを心配する彼の優しさに胸がいっぱいになりました。自分のことはさておき、何よりも他の人のことに思いを馳せられ言葉にできるということは、とても大切な才能です。この時、彼が笑顔でいられない社会をつくってはいけないと強く思いました。

 大人も子どもも発達障がいの方々が生きづらさを感じているといわれていますが、その生きづらさをつくっている社会の方が優しくないのではないかと思います。子どもも大人も生き急がされ、自分のことで精一杯、小さなコミュニティでルールをつくり少しでも外れると除外されてしまう、そんな社会が正常だとはどうしても思えません。発達障がいという言葉は社会的に認識されるようになりましたが、社会の構造は何も変わってはいないように思えます。いじめの問題とも無関係ではないと感じます。誰もがあるがままの自分で、自分らしく生きていける社会であってほしいと思います。そこには障がいの有無など関係ありません。子どもも大人も、時には多くの人から見て間違っていると思われる行いをすることもあるでしょう。その時に周りが支え、受け入れ、折り合いをつけ共に生きていくことが必要なのではないでしょうか。みんな大切な命です。

 子どもは夏に成長するといわれます。秋は文化の秋、スポーツの秋。行事も多くさらにたくさんの経験を積んで成長していくことと思います。私は大人として、子ども一人ひとりの伸びやかな成長と満面の笑顔を見守りたいと思います。
(ますたに・ゆうこ)


ふしぎな ともだち

『ふしぎな ともだち』
(たじま ゆきひこ/作、くもん出版)


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