えほん育児日記
〜絵本フォーラム第120号(2018年09.10)より〜

子ども達にこそ絵本を届けたい!

 

中出 素子(絵本講師)

なかで もとこ 私は40年以上ラボ・パーティのラボ・テューターをしています。「ことばがこどもの未来をつくる」を合言葉に活動をしてきました。外国語の自然習得をめざしていますが、そのためにはまず「ことば」特に美しい豊かな日本語に触れてもらいたいと、物語を教材にしています。昔話、神話、古典文学、創作物語といろんなジャンルの物語を取り上げています。

 小1の子が「スサノオ」が好きだったり、小4の子が「15少年漂流記」にのめりこんでいたり、子どもによって大好きなお話はいろいろです。お話は子どもに本当にいろいろな出会いをさせてくれます。それが心を豊かにしてくれるのです。言葉の育っていない人に深い話はできません。ましてや外国語を駆使することはできません。お話を身体表現することで言葉も社会性も育てているラボの活動。子どもの頃にたくさんの物語に触れることの大切さを日々感じていました。そして、11年前に「絵本で子育て」センター主催の「絵本講師・養成講座」を受講して、これまでの活動にますます自信を深めることができました。

  最近「絵本セラピスト」や「絵本セラピー」という言葉を目にするようになり、とても気になっていました。私は「セラピー」を治療、心理療法と捉えていて、心理学を深く学んだ専門家による絵本を使った治療と考えていたからです。数回の研修を受けただけのセラピストの方がそんな心の治療が行えるのだろうかと疑問がありました。また、「大人のための絵本セラピー」という講座が多く見られ、「大人のため」ということにも引っかかっていました。

 関心がありましたので、レジュメをいくつも読ませてもらったり、SNSを通じて情報を得たり、関連の本も数冊読んでみました。その結果、「絵本セラピー」には、絵本を通して、絵本作家のメッセージを考え、話し合うことで、自分の心のなかに変化が起こり、それを感じること、特に心の中で前向きな気持ちになれる、という前提があることを知りました。

  また、ある本で「生活の中に絵本があって、それを親しむことによって精神的に行き詰まっていたり、病的な状態であったりする心が前向きになる」(『絵本セラピーのすすめ』笹倉剛/著、あいり出版)という言葉に出会い、少し納得しました。「心理学による治療」というより、もっと気楽に「絵本を読んでもらった参加者が日頃感じていることをお互いに話し合い、自らの問題に気づき、自ら解決に向かう、大人の心の癒しの場」「大人に絵本のことについて伝える」などを目的としていると理解しました。

 でも、絵本が大好きで、長年子ども達に読み聞かせをし、子育て中のお母(父)さん方に「親子で絵本を楽しみましょう」と伝えてきた「絵本で子育て」センターの絵本講師である私は、やはり子どもにこそ絵本を読んであげたいのです。なによりお母(父)さんに幼いころから自分の子どもに絵本を読んであげることの意味の深さを伝えたい。読み聞かせすることで読み手(大人)の心も温かくなったり癒されたりすることを伝えたい。そう強く思いました。

 私は、子ども達が絵本で心を揺さぶられ、絵本を通していろんな体験をしながら目を輝かせている様子を見るのが何より嬉しいのです。年齢によっては、子ども達とお互いに話し合うことがあってもいいのかもしれません。絵本を読み終わった後、子ども側から意見や感想が出て盛り上がることもあります。時には関連絵本を紹介したり、作家について話したりすることもあります。絵本を読んだことで、子ども達に勇気がわいてきたり、興味を持つきっかけになったりすることは本当に嬉しいことです。

  可愛い子ども達と絵本を通して心を通わせるのが、私にはぴったりくることだなあと改めて思いました。そして、私自身の活動の道がはっきりしました。
(なかで・もとこ)

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