子育ての現場から

子育ての現場から 4


イヤイヤ期のあなたもだいすき?

増田 友野

 天使のような寝顔ですやすや眠り、泣いたその声もまだ小さく、ころんと布団の上に転がり、動いてどこかに行くこともない。「儚い」という言葉がぴったりの「赤ちゃん」という存在に、とてつもない愛おしさを感じる親はたくさんいると思う。ところが、1歳半前後から「赤ちゃんだった彼ら」が強く意思を持ち始める。いわゆるイヤイヤ期が現れるのだ。それは、終わったかと油断するとまたひょっこりやってきたりしながら、大体4歳くらいまでグズグズと居座る。天使から一転。悪魔とまでは言わないが言いたくもなる。何を言っても「いやだ!」「ダメ!」、大泣き、地団駄、キーキー声。勘弁してよ、こっちだってもう嫌だよ!と叫びたくならない親は、果たしているのだろうか? まだまだ可愛いはずの幼児相手にこんな具合で、私の子育てはこの先大丈夫かと心配になるわけである。

 私が絵本で子育てについてのお話をさせていただいている支援センターや、我が家で開催している「絵本で子育てクラブ」に来られるお母さんたちは、まさにその悩みを抱えて日々奮闘されている。ほかでもない私自身も、4歳と1歳の息子を育てる悩める母なのである。

子育ての現場から たとえば同じくらいの子どもを育てるお母さんたちとの会話では…… 「朝ごはん全然食べないの。何度優しく言っても食べないから、『もう食べないならおしまいにするよ!』って言ってもまだ遊んで食卓の椅子からすぐに降りてしまうの。『はい、わかりました。じゃあ、ごはんもう捨てるから!!』って言うと、『嫌だ〜食べる〜』って泣きながら言うから反省したのかと思ったら、また遊び始めるの。じろっと睨むと、『食べさせて〜』だって!!」 「わかる! うちはこの前公園帰りに激怒しちゃったよ。裸足で遊んだ後、『ちょっと玄関で待ってて』って伝えてさ、雑巾を取りに行って玄関に戻ろうとしたら、もう目の前に汚れた足でそのまま入ってきてるの。『もうっ、待っててって言ったじゃん!!』って言ったら、『だって〜』って言うからカッチーンときて、『金輪際あなたの足は拭きません!!』って怒ったの。そうしたら、『拭いて〜足拭いて〜』って泣いてた」。

 子育てを懐かしく振り返る先輩方にとっては、どちらも「かわいいじゃない」「お母さんって求めてきてくれるうちが花なのよ」ということなのだろう。私たちも思い出して話すときには、実際、既に笑い話なのだ。しかし、その時は本気で子どもの姿に苛立ちを覚え、そんな自分に失望もしてしまうのである。

 そんな時、「あなたがだいすき」と、ストレートに子どもに伝えられるだろうか? 私にはできないな、そもそもそんなキャラでもないし、朝起こしてから寝かせる直前まで心にそんな余裕はない……というお父さんお母さんにこそ絵本で子育てをお勧めしたいと思っている。その名も『あなたがだいすき』(ポプラ社)というタイトルの絵本がある。2分もかからずに読めてしまうこの本の中には、「だいすき」をはじめとする、目の前にいる「あなた」を丸ごと抱きしめる言葉がたくさん入っている。難しいことは考えなくてもいい。読むだけでその言葉は「わたし」の言葉となって、「あなた」に届く。私自身この一冊に出会えたことで、イヤイヤ期の毎日、どんなに救われたことだろう。鈴木まもるさんの『すすめ!きゅうじょたい』(金の星社)という絵本が大好きになった息子が、この絵本にも出会わせてくれた。

 この先、イヤイヤ期なんてかわいい悩みだったと思える時がやってくることは間違いない。子育ての悩みは成長とともに変化し、複雑化していくという。「あなたがだいすき」なんて、言わせてもらえなくなるだろう。でも、私は「あなたが いるだけで とっても とっても とっても うれしい」、と絵本の力を借りて、絵本の言葉に心を乗せて言い続けていきたい。
(ますだ・ともの)

絵本フォーラム118号(2018年5月10日)より

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