子育ての現場から

子育ての現場から 3


絵本の読み聞かせはひとりよがり !?

加藤 美帆

  6、7年前「絵本の読み聞かせとか、絵本が子育てに良いなんて、ひとりよがりな考えじゃないの?」、ある人に言われました。

加藤 美帆  「読み聞かせは親のエゴ……」。否定されたような悔しい気持ちになりショックを受けました。「ひとりよがり」という言葉には、「自分だけでよいと思い込み、他人の考えを聞こうとしないこと」という意味があります。「絶対違う!」と感じたものの、強く思いを述べられませんでした。しっかりと自信ある返答を持ち合わせていなかったのだと思います。「人の考えは千差万別だし、確かにそう思う人もいるのかな」と色々考えてみました。考えれば考えるほど「絵本の読み聞かせがひとりよがり……」。ズーンと重くのしかかるような言葉に、当時の私はシュンと空気が抜けたように小さくなりました。

  《絵本の読み聞かせが子育てにどのようなことをもたらしてくれるのか》、伝えていく上で、受け売りではなく自分の言葉で説明するには、絵本について、言葉について、発達について、親子関係について、心について、時代背景について、環境についてたくさんのことにアンテナを張ることが何より今の自分には必要だと思ったのです。

 あれから6年。子育て支援・発達支援・学校教育に関わり様ざまな子どもたちと出会ってきました。「絵本、いろいろ読んであげてくださいね」「子育てや子どものツボ探しにもなりますよ」と今も伝えています。

 絵本だけに限らず、子どもたちには興味や関心を持てることに出会い、たくさん経験を積む事は大事です。しかしながら時間・空間・仲間の「3つの間」がなかなか取れず、実体験が持ちにくい現在、やはり絵本の読み聞かせには大切なことがたくさん詰まっているように思います。絵本を読むことで、普段できないこと、思いもしなかったこと、想像の世界、ごく身近なことなど、多くの経験ができます。一回ではなく、何回も何十回も読んで聞かせて、そして熟成されていい経験につながるのだと思います。

  絵本の読み聞かせの魅力についてお母さんたちに伝えたとき「面倒!」「忙しく余裕がないから無理!」という声を聞きます。けれど、読み聞かせは負担に感じるような面倒なことでは決してないのです。それよりも、読み終わった時、自分自身がすごくリラックスできていることがしばしばあります。出来れば、絵本を読むことは《子育ての環境づくり=時間・空間の共有》という認識になるといいなと思うのです。絵本は幼い子どもにとって、世の中と繋がる様ざまなことを経験できるツールでもあるのです。大人と一緒に一つのものを目で追い、前後のページに戻ることもでき、時に声を出し、聞きながら絵を見ます。次第に読み手聞き手を交代しながら真似っこし想像の世界を共有していきます。膝の上に乗せ、触れ合い、互いの呼吸・心音・体温も感じ、五感をフル稼働させてくれる絵本の読み聞かせ程、万能な関わり遊びはないのです。

 私自身、絵本の読み聞かせからたくさんのヒントを得、癒され助けられました。それは今も継続中です。子どもが小さかったときは8才9才くらいまでは読み聞かせできたら嬉しいなあと思っていたのですが、気づけば、今年中学生になる長男も高学年になる次男も「本読んでよー。寝やすくなるねん」とまだ読み聞かせを喜びます。大きな身体をもたせかけてくるので、読み終わると私の肩腰が痛くなるほどです。その嬉しい痛みは、「ひとりよがり」では決してないと改めて痛感します。

  その「ひとりよがり」と言った人ですが、実はとてもお世話になった大学教授なのです。数年後、「最終的にきっちりとした理論と根拠そして持論を見いだせたなら、これはひとりよがりではない」と少しうれしいお言葉。更には「加藤さん。絵本なかなかおもしろいね。孫が生まれたのだけど、どんな絵本がいいかな?」と言っていただきました。その先生は現在、絵本で孫育て実践中だそうです。
(かとう・みほ)

絵本フォーラム117号(2018年3月10日)より

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