子育ての現場から

子育ての現場から 2


高学年 読み聞かせのリアル

久賀 弥生

 久賀 弥生 4年前の3学期。荒れている高学年クラスで一日おきに読み聞かせをしていました。
 「何しに来とんのや」「はよ帰れ」と言う子どもたちを、絵本の中の言葉でぎゅっと抱きしめるつもりでいろいろな絵本を読みました。
子どもは大人がどんな気持ちで自分たちの前に立つかを見抜きます。
日を重ねるうちに、その子たちが「何で昨日は来んかったん?」と訊ねたり、「おーい!」と教室の窓から手を振ってくれたりするようになりました。
持参した絵本を学級文庫や教室の後ろに並べておくと、必ず誰かが手に取り読み始めるのです。
寝る前にお母さんが絵本を読んでくれると言った女の子に「まだ絵本読んでもらってるん!?……ええなぁ」と言ったのは、クラスの中でも特に挙動が目立つ男の子でした。

「この子は何が好きなんやろ? どんなことに興味を持つかな?」朝の時間にクラスで読む絵本選びが一人ひとりを見つめるきっかけになりました。
「この写真すごいで!」と持って行った『ダイオウイカ、奇跡の遭遇』(窪寺恒己/著、新潮社)。
クラスの何人かで回し読みをしたり、家に持ち帰り一日で読んだりする子もいました。


 子どもが本を読まなくなってきたとメディアは伝えますが、本に出会うきっかけが少ないのか、興味が持てないだけなのかもしれません。
やがて子どもたちからリクエストが来るようになり、その中の一冊『みんなうんち』(五味太郎/さく、福音館書店)の動物の排便シーンでは「歩きながらうんちって……ありえへん」。
腕白なN君の真剣な呟きに「ほんまやなぁ」と笑ってしまいました。

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 絵本を読み終えたときの余韻。
子どもたちから一斉にこぼれる吐息……現実に戻る瞬間。
子どもたちと絵本を読んでいると、絵本という乗りものに一緒に乗って、ひとときの旅をして帰ってくるような感じがします。 
友人とタッグを組んで6年生対象のおはなし会をした時のこと、プログラムが終わると同時に、子どもたちがわれ先にと並べた絵本に飛びついたのです。
手にすることができなかった子は悔しがるほどでした。
0.1.2歳絵本もRock調で読めば教室全体が縦ノリになります。実は「絵本? うちらもう6年生やで」と思っている子もいて、それをブレイクスルーしたくて読み方を工夫し、選書をします。
おはなし会をしても高学年は来てくれないという話を耳にしますが「絵本って楽しいなぁ」「絵本っていいなぁ」と子どもたちに感じてもらえる瞬間を、絵本を仲立ちにして私たちはきっと持てるはずです。
読んであげたい絵本は学年によって様々ですが、高学年でも「おかゆ」みたいにほっとする絵本もたまにはいいものです。

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久賀弥生 ある日、6年担任の先生に「おすすめの絵本です」、と『そらいろ男爵』(ジル・ボム/文、 ティエリー・デデュー/絵、中島さおり/訳、主婦の友社)を渡しました。
休み時間に廊下ですれ違う子どもたちが「あの絵本面白かったよ!」「えーっと、あおいろ男爵?」「そらいろ男爵やろ」「そう、それ!」「 本、落とすやつな!」と次々と感想を話してくれました。
先生が「久賀さんおすすめの絵本」と言葉を添えて読んでくださったのかもしれません。

 また、6年生の教室にはLGBTについて書かれた絵本が何冊も並べられていました。
先生が選んだ絵本を見ていると「みんなと違っていてもいいんだよ。いろんな生き方があっていいんだよ」と先生の心の声が聞こえてくるようで、胸がいっぱいになりました。 

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本との出会いは、人との出会いに似ていて、一冊の絵本や本がもたらすものが人生を深く豊かにしてくれることがあります。
子どもたちもいつかそんな一冊に出会えることを願って、私は今日も『そらいろ男爵』のように絵本を選んでいます。
(くが・やよい)

絵本フォーラム116号(2018年1月10日)より

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