えほん育児日記

   
わが家の子育ては・・・


~絵本フォーラム第116号(2018年01.10)より~  第4回

わが家の子育て1  長女は年長になって長い物語に興味を持ち始めましたが、相変わらず「読んで」と私のところに絵本を持ってきました。どんな絵本でもいつも一緒に読みました。
「自分で読まないの?」と聞くと「読んでもらった方がおもしろいから」と言います。
かなり長い読み物も、毎日少しずつ読み進めば側にかじりついて根気強く聞くので、こちらも腰を据えてじっくり読みました。


 お話が長くなるにつれ、難しい言葉や表現も増えてきます。
わかりにくいかなと思う箇所を途中で説明しながら読んでいた時のこと、長女に「説明しなくていいよ」と断られました。
「途中で説明されるとお話が止まってしまうでしょう? それに、知らない言葉でもなんとなくわかるから大丈夫」。
そう、きっぱりとした態度で意思表示してきた長女に驚きながらも、なるほどと納得しました。
どんな文章にもリズムがあって、途中で説明したり確認したりするとリズムが途切れて集中できなくなるというのでしょう。
せっかくお話の世界に浸っているところを邪魔してしまい、申し訳ない思いでした。

  長女は私が思う以上に物語の世界に入り込んでいました。
わからない言葉がひとつあったからといって、それは物語の奥深くへわけ入る妨げにはならず、想像力で自然と補っているようです。
挿絵と文章がかもし出す空気や感情といった目には見えないイメージを鮮明に受け取り、自分の意思で物語のなかをどんどん進んで行く長女。
そのような力強さが育っていることを頼もしく感じました。

                        *   *   *

 長女に読み聞かせている時も、二歳の次女はいつも傍らで聞いていました。
長女にと思って選んだ『ちいさいモモちゃん』(松谷みよ子/作、講談社)にも、いつものように耳を傾わが家の子育て2けていましたが、意外なことにこの本が大好きになったのは次女の方でした。
半年以上かかってシリーズ六冊を読み聞かせ終えた頃には、次女はどのエピソードがどの巻に書かれているか覚えて、教えてくれるようになっていました。
五歳になった今でも度々出してきては読み返しています。
モモちゃんとアカネちゃんの本は両親と幼い姉妹の四人家族の物語で、松谷みよ子さん一家がモデルになっています。
ファンタジーを交えながらも実際の出来事がモチーフとして描かれている場面が多数あり、離婚や死といったテーマも扱われています。
最初は、次女にはまだよく意味がわからないだろうと思っていましたが、六冊もの長い物語をじっと息をのんで聞き続ける次女から、わかるわからないを超えた心意気を感じました。
「今日は違う絵本にする?」と勧めてみても、「モモちゃんがいい」と言う次女の眼差しは真剣そのものでした。


 松谷みよ子さんとその家族を巡る物語は、綺麗な出来事だけでなく、子どもに聞かせたくないと思うようなことも率直に語っています。
親も子も一人の人間として傷つき、支え合いながら生きる姿が深く胸を打つ作品です。
大人がありのままの想いを紡ぎ、真摯に自分と向き合う姿勢は子どもにも必ず伝わります。
次女はストーリーの表層だけでなく、もっと奥で物語を貫く大切なものを感じ取ったからこそ、この本に惹かれたのだと実感しました。
まだ小さいからわからないという考えは私の思い込みでした。
モモちゃんの物語は、次女にとって特別な愛着のある本になったようです。

                        *   *   *

  娘たちと私は、絵本の好みの違いをお互いの個性として尊重し、共有するようになりました。
自分の好きな絵本を「これおもしろい!」と伝え合い、一緒に読んで楽しむことがそれぞれの自信に繋がっているように見受けられます。
私は絵本を通して、彼女たちの心の内を垣間見ます。どんなことを考えているのかな、何に惹かれるのかな、この子はどんな人間なんだろう……絵本を介してともに時間を過ごすことで、娘たちと一人の人間同士として対等に接するようになりました。
より深い絵本との関わりを、娘たちは示してくれています。


(しのはら・のりこ)

前へ | 次へ
えほん育児日記