えほん育児日記

   
わが家の子育ては・・・


~絵本フォーラム第115号(2017年11.10)より~  第3回

 長女が幼稚園に入園して間もなく次女が生まれました。次女の誕生

  子どもが二人になり、倍以上の慌ただしさでしたが、気持ちは自分でも驚くほど軽やかでした。二人目の子育ては一度経験してきたことが多く、初めての時にはなかったゆとりが生まれていました。どうしていいかわからず一日中抱っこしていた四年前とは違います。「ちょっと待ってね」と一声かけるだけで、泣き声が家中に響き渡っていても全く苦になりません。大事にしまっていた長女のお下がりを赤ちゃんに着せて「すぐに大きくなるのよねえ。赤ちゃんじゃなくなるのが寂しいわ。抱っこさせて!」といった具合です。女の子がもう一人増えた我が家、一気に明るく賑やかになりました。

 しかし、赤ちゃんのお世話は慣れていても、お姉さんになった長女の心中は計り知れません。入園と妹の誕生という大きな変化で張り裂けそうな長女の心をなんとか掴もうと、心配したり焦ったりで毎日あたふた……。赤ちゃんに優しくしてくれますが、無理して自分を押し殺してはいまいかといつも不安でした。長女にその時の気持ちを今たずねてみると「なんでこんな子が来たんだ! って最初はイヤだったよ」とのこと。やっぱりそうだよね……。

 だから一日忙しくしていた日も、必ず夜には長女を膝に乗せて絵本を一冊読むことにしました。そうすればバタバタの一日もどうにか無事に終えられます。二人になれる時間です。短くても絵本の世界に二人で入り込むひとときは、今まで以上に密度の濃い、大切な時間であったような気がします。娘たちに充分に時間を割くことが叶わない夫婦だけの子育ては、またまた絵本に助けられました。

  そのうちに長女も少しずつ、様々な変化をしなやかに受け容れられるようになりました。次女の誕生で、家族みんなが優しく逞しくなるのを感じました。

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次女の誕生2 幼稚園の頃、文字に興味を持つお子さんも多いかと思います。娘にもそのような時期がありましたが、私は本人が覚えるのに任せ、それ以上は教えませんでした。幼稚園も字や数字などを大人側から教えない園でしたので、娘は小学校に入るまで習い学ぶことをしないで育ちました。  

 これまで親子で絵本を楽しんできた経験から、文字を教えるとどうしても文字を目で追い、せっかくの素敵な絵を見るのがおろそかになるのではないかと考えたのです。それはとても勿体無いことで、なるべく先に延ばしたい気持ちでした。何の知識もなく、教育理論や育児書などは全く読んでいませんでしたが、直感でそう決めました。

 一度、文字の形を正そうとしたことがありました。“間違いは小さいうちに正したほうがいいのでは”という考えがよぎったのです。でもその時、長女はものすごく嫌がり怒って泣きました。まだ小さいこの子がこんなに嫌がるのだから、今は自分が思うままに書けばいい、正したり指摘したりするのは止めようと思いました。

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 文字は自然と読めるようになりました。お風呂から上がると、長女が妹をちょこんと膝に乗せて絵本を広げています。私とよく読んだ福音館書店の月刊誌「こどものとも0.1.2.」の一冊でした。「たべたいな わんわん こっこ にゃんにゃん もー いろんな かたちの どうぶつクッキー」と読んで聞かせています。暗記していた一節が蘇り、「わぁ懐かしい! 覚えてる?」と私が聞くと「覚えてるよ」と長女。本棚の端の方にあった赤ちゃんの絵本に、長女がもう一度息を吹き込みました。

 文字が読めるようになっても自分では読まず、いつも「読んで」と持ってくる長女でした。小さかった長女のなかに“妹に読んであげよう”という気持ちが、何も教えなくても確かに芽吹いていました。絵本は誰かに読んでもらったり読んであげたりして、手から手へ伝わっていくものなのだと知りました。

 こうして私たちは懐かしい絵本に再び出会い、絵本の記憶で繋がり、絵本を通して仲良しになりました。ずっと大きくなった今でも、それは続いています。


(しのはら・のりこ)

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