こども歳時記

〜絵本フォーラム113号(2017年07.10)より〜

本当に大切なことは……

 四季は律儀にその時その時の姿で私たちを楽しませてくれます。シトシト降る雨をみては「あめふりくまのこ」の歌をつい口ずさんでしまいます。ここ近年はシトシト降る雨というより、集中豪雨・ゲリラ豪雨などが増えたように思います。梅雨から夏にかけての雨の形容は本当に豊富で、「入梅」「送り梅雨」「残り梅雨」「空梅雨」などたくさんあります。降るときは短期集中して降り続け、降らない時はすっきり晴れる梅雨を「男梅雨」、あまり強く無い雨がずっとシトシト降り続く雨を「女梅雨」というそうです。今年も暑い夏がやってきます。元気に乗り切りたいものです。

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 ある朝、息子たちと朝食にトーストを食べていた時の事。お皿にたまったパンくずをさわりながら「お母さん! 見て! 日本!」と。よく見るとパンくずを集めて日本地図を作っていました。大中小様々なパンの欠片(かけら)がお皿の中で、北海道、本州、四国、九州、など、日本列島になっているではありませんか。

 慌ただしい朝なのに「パンくずアート」に魅了され、少し癒された時間でした。と同時に「○○みたい!」と思うことが大人になると少なくなっているな、と気づかされたのです。

  小さいときは雲を見ては「綿菓子みたい」「お魚みたい」と思い、お風呂で泡遊びをしては頭に乗せて「ベレー帽みたい!」と。「○○みたい!」な体験は、子どもならではのものではないでしょうか。子どもって「見立て遊び」の天才だなと思います。

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 その時、頭に浮かんだ絵本がありました。『おとうさんの ちず』(ユリ・シュルヴィッツ/作・絵、さくまゆみこ/訳、あすなろ書房)です。戦争で故郷を追われた作者が画家として歩む原点となった自伝の絵本です。見知らぬ地で間借り生活をし、食料も乏しいなか、父親はひとかけらのパンではなく一枚の地図を買ってくるのです。家族から散々批判されますが、父親はその地図を壁に貼ります。夢も希望もない暗い生活を送っていたなかに、部屋に色が溢れ、そこからたくさんの想像の世界が広がっていくのです。

  《せまい へやに いても、こころは とおくへ とんで いけるのだった。》と想像することで夢や希望が与えられたのです。≪ちずの おかげで、ぼくは ひもじさも まずしさもわすれ、(中略)ぼくは、パンを かわなかった おとうさんを ゆるした。やっぱり おとうさんは ただしかったのだ。≫、人にとって本当に大切なことは目先の事・欲を満たすことではなく、心豊かでいることなのかなと感じます。どんどん広げていく想像力は雄大で計り知れない希望で溢れています。

 「日本列島パンくずアート」と勝手に命名しましたが、息子たちの想像する力からは、大きな希望を感じます。想像の旅なら自由自在、さて、夏休みはどこへ出かけましょうか。(かとう・みほ)


加藤 美帆(絵本講師)
絵本講師 加藤 美帆


おとうさんの ちず

おとうさんの ちず』
(あすなろ書房)


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