こども歳時記

〜絵本フォーラム112号(2017年05.10)より〜

非効率さにある人間らしさ

 ショルダーフォンを持ち、ソバージュヘアに派手なボディコンスーツを着た女性芸人のバブルネタに、時代を懐かしみ笑いを誘われる。

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 バブル崩壊から約25年。通話機能のみで3sもあったショルダーフォンは、多機能を搭載した150g程度のスマートフォンに変わった。スマホに向かって質問や依頼をすると即座に応えてくれる機能を使えば、キーボード操作が不十分な子どもや高齢者でも簡単に使用できるとありユーザー対象も幅広い。

  昨年10月に実施された「未就学児の生活習慣とインターネット利用に関する保護者意識調査」(子どもネット研)の発表によると、0歳児の2割、1歳児の4割がスマホなどの利用を経験しているそうだ。2015年3月に実施された総務省の全国調査と比べると、各年齢で利用率がアップ。1年半の短い期間で利用の低年齢化が進んでいることがわかったというのだ。人工知能(AI)技術がスマホをますます魅力的なツールにし、乳幼児の日常生活に深く入り込んでいるのかもしれない。

 車の自動運転や、将棋や囲碁のプロに勝利するなど、身近なテーマで成功していることで急に注目されたように思うが、AIという用語は1956年に生まれ、以降過去2度の興隆を経て現在は第3次ブームなのだそうだ。政府は、ものづくりや物流、医療、介護の現場を大幅に効率化する構想を発表。物流分野では、2030年をめどに完全に無人化するとの目標が明記されている。「便利な時代になる」なんてものではない。AIが人間を襲う?人間は不要?などの不安や危惧の声があがるのも当然だろう。AI技術が向上しても、生命性をもつわけではないので人間を襲うことはないだろうが、AIとどのように付き合い、なにを幸せと考えて生きていけばいいのか。これまで以上に倫理観や人間の在り方と向き合う必要がありそうだ。

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 日本では1977年、原書は1966年に発行された絵本『ものぐさトミー』(ペーン・デュボア/作 松岡享子/訳 岩波書店)。電気仕掛けの家に住む主人公のトミー・ナマケンボの一日は、起床から入浴、歯磨き、着替え、食事もすべて機械任せ。食事が終わるとくたびれてぐったり。午後はぞっとするほど長い階段をのぼって、日が沈むころにベッドにたどり着き翌日を迎える。ところがある夜、嵐が来て7日間も停電に。再び通電したときは7日分のプログラムされたメニューがトミーを襲う。その機械に翻弄されるさまは、抱腹絶倒である。

  数年後にはAIが制御する家や家電の普及が予想されているが、機械に頼る人間の怠惰性をテーマにしたこのお話は、時代を経ても色褪せないと思っている。非効率さにある人間らしさを大切にしていきたい。
(きた・もとこ)


北 素子(絵本講師)
絵本講師 北素子

ものぐさトミー

「ものぐさトミー」
(岩波書店)

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