私が絵本の読み聞かせを始めたのは25年前です。絵本には全く興味がありませんでしたが、長女への読み聞かせを始めて、私自身が絵本の楽しさを知りました。
近所の子どもたちにも読むようになりました。就園前のお子さんのために言葉の繰り返しが多い絵本を選んで自宅でよく練習していました。練習のときは、夫と3人の子どもたちがいつも近くにいるのです。
練習の始まりです。『どんどこ ももんちゃん』(とよたかずひこ/作、童心社)、この絵本はいい絵本です。大好きです。《どんどこ どんどこ どんどこ どんどこ ももんちゃんが いそいでいます》、ほとんどがこのフレーズの繰り返しです。現代のイクメンパパには想像もできない戦後生まれの骨とう品みたいなお父ちゃんが、「そんなので、ええんか」と絵本も見ないでクレームをつけたそうにしています。
ある時、「大人に絵本の良さをお話ししてほしい」と依頼を受けて、いろいろ考えた末に『いのちをいただく』(坂本義喜/原案、内田美智子/作、講談社)を紹介しようと決めました。読み聞かせの練習をしていると、テレビを見ていた夫が涙を流しながら「もう1回読んでくれ」と言うのです。初めて聞いた言葉でした。
定年退職を目の前にした夫、トサツ所で働く坂本さんというお父さんと自分が重なったようです。驚きました。
絵本を見ていなくても、他のことをしていても、耳は私の声を聴いていたのです。
家族の声、なじみのある声はやっぱり聴いてしまう。夫にとって、私の声は大好きな人の声ですもの。
(おおの・きみえ)
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