たましいをゆさぶる子どもの本の世界

 

「絵本フォーラム」第108号・2016.09.10
●●97

言葉では表現できない「ぼく」と「にいちゃん」の関わり

「ぼくのにいちゃん すごいやろ! 」(えほんの杜)

 

ぼくのにいちゃん すごいやろ!  きょうだいとは、一般的には兄弟・兄妹・姉妹・姉弟のこと。本人から見て傍系2親等の人間関係である。総じて兄弟姉妹(けいていしまい)といわれる。1親等の父親・母親が異なる異父きょうだい・異母きょうだいもいる。これらは、血のつながりがあり、肉親とされる。両親をともにするきょうだいには顔や体つきや性格に至るまで、わりあい似たところが多いのが特徴だが、そうとばかりは言えない。すこぶる仲のいい幼なじみや学友を、”きょうだいみたいな”関係とするのは、一般的なきょうだい観の特徴からくるものだろうか。

  日中15年戦争終戦をまたいで育ったぼくのきょうだいは6人、終戦時内地にいた兄(故人)、戦地の大連にいた姉とぼく、そして、戦後父の郷里に生まれた弟3人である。

 中国大連からの引き揚げ、敗戦時の混乱、戦後復興過程、その幼年・学童・少年時代のほとんどをともに過ごしたきょうだいとの関わりは、一般的なものとは次元の異なる格別の関わり。現在社会から見れば、両親の存在はともかくとして、艱難辛苦の連続だった終戦時・戦後のあゆみも、きょうだいがいたから苦にならず、卑屈もしらず、放縦にながれずに、子ども時代を子どもとして健康に楽しく生きてきたと想う。だから、言葉ではとても表現できない遊びも諍いも酸いも辛いも丸ごとひっくるめた、いい関係がそこにあったのだと思う。そんな関係は、今も当然のようにつづく。

                     * * * 

 こんな兄と弟はどうだろう。

 兄弟は、絵本『ぼくのにいちゃん すごいやろ!』の「ぼく」(ヒデトシ)とにいちゃん。「へ〜イ ベイベ〜!」は、にいちゃんの口ぐせだ。下級生をみつけるといつもえらそうにこう言う。

  今日、ぼくは、友達のダイスケとマナブと釣りにでかけた。途中で「へ〜イ ベイベ〜!」とあらわれたにいちゃん。「オレは、これから サッカーのしあいや」といい、ミラクル・シュートを蹴りこむとか、魚釣りは今度教えてやるとか、まあ、えらそうなことを……。ヘマばかりでドジなにいちゃんをよく知るダイスケとマナブは「らいねん、おねがいします」ときっぱりと言ったのだけれど…。3人が川に着き、釣りの準備に入ったとたん、「へ〜イ ベイベ〜!」の声がうしろに。どうやら、にいちゃん、サッカーでメンバーに入れなかったらしい……。

 で、それからはじまるにいちゃんとともだち、そして6年生の悪ガキたちとの、ほのぼのドタバタ活劇のはじまり、という展開となる。

 「ぼく」のにいちゃんは、ドジで。走るのも泳ぐのも「ぼくら」よりおそいし、身長も「ぼくら」といっしょだ。おまけに、くしゃみしたら同時におならが出て女の子たちが大爆笑したことだってある…、弟の「ぼく」の気分は、あれこれと複雑なのである。

 でも、にいちゃんは、好き嫌いなくなんでも食べるし、いったん泣いてしまったら、けんかも強いんだ。それに、「ぼく」には、なによりやさしいにいちゃんなんだと、「ぼく」は内心にいちゃんをかばい慕うのである。

 そんな「ぼく」のにいちゃんが、ちょっかいを出してきた6年生2人を「おまえら、どっからでも かかってこい」と追い払うのである。

  「どうだい、ぼくのにいちゃん すごいやろ! 」。にいちゃん大好きの「ぼく」の誇らしげな心の声が聞こえるではないか。―?こんなほのぼの兄弟、みなさんの近くにはいませんか? ――あの町この町、たくさん、いて欲しいなぁ……。
(おび・ただす)

(「ぼくのにいちゃん すごいやろ! 」くすのき しげのり 作 福田 岩緒 絵 えほんの杜)

 

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