●あっという間の一年でした
この一年は私にとって、これまでと少し違う立場でたくさんの出会いがありました。この原稿を書かせていただいたことも、たくさん考える貴重な機会となりました。
その中で、人と人や、人と周りのものとの関わりについて、子どもたちにぜひ伝えたいたくさんの言葉がありました。「尊さ」ということばの深さ、「敬う」「愛おしむ」ということ、「信頼」するということ、「わかる」ということ。
以前の私の絵本講座のレジュメには『目に見えない大切なもの』という項がありました。その内容は今も私にとって大切ですが、大きく変ったことは、やっぱり見えるのかもしれない!という発見です。表情に、仕草に、ことばの裏に……。子どもが感じているものや優しさ、夢に見ているものも。大切なものはきっと見える。見える目をもちたい、心の中にあるものを汲み取り大切にしたい、と思うようになりました。私は一年間自分のことを夢中でやってきたように思うけれども、私をたくさん助けてくれた我が子たちがいました。その成長や折々の表情を、私はちゃんと振り返ることができます。きっと私たちも、子どもに見せて伝えていくことができるのです。
●りんごの木を植える
中川正文先生が、いつも仰っていたことばを、この一年何度も思い返していました。それは、あれもこれも全部はできなくても、今日できる一つのことをやること。丁寧にきちんとしたいと思うことをちゃんとやること。そしてそれが「明日」に、「いつか」につながるということ。大事に思い、一生懸命したことは決して無駄にはならないということなのだろうと思います。
●「我」という文字。
「我を通す」、「我を張る」、というと何かマイナスのイメージですが、「我思う」……自分自身と向き合って何が好きなのかどうしたいのか、ちゃんと考えることはとても大事。一人ひとりの自分ほど大切な存在はないのですから。
また「我々」ということばがあります。今、人と人とが集まって話し合い、同じ思いや目的を共有して「私たち」を主語にして話せることがどんどん減っているのではないか、と聞きました。でも、私たちも子どもの頃、幼稚園や学校で「ぼくたち、わたしたちは」とメッセージを考え発表していたはずです。もう先生にリードしてもらわなくても、大人たちは自分たちで話し合い理解しあってしっかり手をつないでやっていく。子どもたちにもそのお手本を見せていきたいと思います。
●ともだち
『ともだち』という絵本や、タイトルに「ともだち」のつく本や歌がたくさんあります。我が子が小さい時、仲がよいほど喧嘩して「○○ちゃんきらい」と言うし、本当に苦手な子がいるのもわかるし、その気持ちを受入れながらどう返していいかわからず、子どもと手をつないで歩きながらいつもそんな歌を口ずさんだり、絵本を読んだりしていました。
子どもの友達は、私が百の言葉を尽くして言い聞かせるよりもはるかにたくさんのことを、私の子どもに教えてくれているのですもの。もちろん、今も。感謝です。
●生まれてきてくれてありがとう、と言えるしあわせ
保育の仕事を通して、この言葉にたどり着くまでにたくさんの大変な思いをしてこられたたくさんのお母さん方に会いました。今も率直にそう思えない日もある、それでもやっぱりよかったって思えるから「ありがとう」と。その思いがずっと続きますようにと、心から願います。
今、世の中に起きているとんでもないことのあれこれを思い、子どもが好きだからこそ、親となることへの躊躇を口にされる方もおられます。そのお気持ち、わかる気がします。それでもなお、子どもがいてくれて、私のところに来てくれてありがとう、と抱きしめるしあわせや子育ての喜びを、少しでもたくさんの人に感じてほしい、知ってほしいと思います。
そして世の中全体が、子どもたちに「生まれてきてくれてありがとう。元気でおおきくなあれ」といえるように。子どもたちと子育てする人たちが温かく見守るようなまなざしに包まれるように。
それが、絵本講師として、子育て支援を仕事とするものとして、そしてたくさんの人に助けられて今日も子育てをしているひとりの母としての、私の今一番の願いです。
一年間、どうもありがとうございました。
(くまだき・かよ) |