絵本のちから 過本の可能性
現場からの報告…2
「絵本フォーラム」21号・2002.03.10
 −ハンディをもった子どもたちに、学ぶことの楽しさを−東京・遠山真学塾(小笠毅塾長)は、開塾して20年。現在、180人の子ども達が在塾している。絵本への取り組みは、もう永年続いている。
 東京・遠山真学塾 

 子どもたちと絵本をよむ時間は、とても楽しいひとときです。『ぐりとぐら』になつかしさを覚えたり、『キャベツくん』でかわいらしい笑い声がきけたり、『からすのパンやさん』で話がはずんだり…。大人になって絵本に再び出会え、そして子どもと絵本をつなぐことができる幸せを塾で働いて実感します。
 私たち遠山真学塾は、さんすう・すうがくを中心にマンツーマンで授業する塾です。授業時間はだいたい1時間30分。その中には、お茶とお菓子で休憩する時間、ゲームをする時間、となりで勉強している子とおしゃべりする時間、と子どもによってさまざまです。なかでも、絵本をよむ時間をもつ子がたくさんいます。
教室の真ん中にある
絵本コーナーでは…。



教室中央にある本棚と
月がわりの「おすすめ絵本」コーナー
 教室はオープンスペースで、まん中に本棚が置かれています。絵本からよみものまでたんさくの本があり、かわるがわる選んでいかれるため、教室にはいつでも絵本を楽しむ声が響いています。数年前からはじめた月がわりの「おすすめの絵本」コーナーでは、その月にあったテーマに沿って選んだ絵本を数冊、表紙がみえる形でおき紹介しています。そこでは、中学生の子が「この絵本なつかしいー」といって手にする姿や、迎えにいらしたお母さんが「これ、うちの子好きなんです」と教えてくれる姿など、小さな子に限らずさまざまなひとたちが絵本を通してコミュニケーションをもてる場となっているようです。絵本には対象年齢というものがなく、世代をこえてつないでいってくれる力があることを感じさせてくれます。
「いっしょに」読む楽しさを
与えてくれる絵本

 その力は私たち講師をしばしば助けてもくれます。塾に来たばかりの子や学年の小さな子では、1時間30分ものあいだ一対一で向き合って授業をしているとお互いに息づまってきてしまいます。また、今日は気のりがしなくて勉強が手につかないという子だっているでしょう。そうした時に絵本は私たちを和ませてくれます。お互いのちょうどいい距離を教えてくれ、子どもにとって自分と一緒に楽しんでくれる人がいるという安心感をもたせてくれるように思います。
 なにより絵本は、教える人・教えられる人という関係を離れ、「いっしょに」よむ楽しさを与えてくれます。
 べらべらと次々ページをめくる子に、「よんであげているのに」などと言うのではなく、その子のペースといっしょになってみると、思ってもみなかった絵本の楽しみ方をみせてくれる。毎週同じ絵本の同じページをよむように要求されてもうんざりせずに繰り返していると、大人の視点ではわからなかったすてきなリズムやことばを教えてくれる。などなど子どもによりそって絵本をよんでいるとさまざまな発見があります。そして、いつのまにか「次は一緒にこれをよみたいな」などと講師の方が楽しみになってきたりもするのです。

絵本がいつも身近にある
環境づくりのお手伝い

 塾に通っている子どもたちは、学びに困難や障害をもっていることがほとんどです。絵本を通して一緒に楽しめる人間関係を築けたり疑似体験ができたりすることは、学びに困難をもつことによってどうしても狭められてしまう子どもたちの世界を広げていく手助けとなる、もっとも身近なものだと思います。
 字がよめないから、集中力がないから、などということで学校や家庭で子どもが本から遠ざけられることなく、どんな子でもわけへだてなく絵本にたくさんふれあえる環境があってほしいと願います。塾での絵本をよむ時間、絵本についてのホームページや勉強会などのとりくみが、少しずつでもそのような環境づくりのお手伝いとなるよう、続けていきたいと思っています。


(報告・千田悦代)
遠山真学塾
〒180-0022 東京都武蔵野市境1-2-1 丸十ビル5F
TEL0422-54-4709   FAX0422-54-4425
ホームページアドレス
http://www2u.biglobe.ne.jp/~ogasa/  E-mail sweden@muc.biglobe.ne.jp

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