絵本のちから 過本の可能性
現場からの報告…1
「絵本フォーラム」20号・2002.01.10
 「子どもの心がわからない」「子どもとコミュニケーションがとれない」 ―こんな現状の中で、今、絵本が見直されてきている。さまざまなところで 「絵本の力」「絵本の可能性」をさぐる動きが出てきた。現場からの報告 第1回は、兵庫県西宮市の甲子園学院幼稚園(石川和代園長)からのリポートです。
 甲子園学院幼稚園 

 当園では、今年度(平成13年)『ほるぷこども図書館』をはじめ、約550冊ほどの絵本を揃えました。これは、今まで当園の図書館には、図鑑類や比較的年齢の高い子ども用の本が多く、「読み聞かせ」に使う絵本が少なかったためです。
 絵本の購入は本当に嬉しいできごとで、今までの当園の教育方針を守りながら、絵本による新しい試みができることに、教職員一同、ワクワクとした緊張を持ちました。
保護者・教員に
『絵本出前講座』を導入

 当園では取り組みに当たって、ほるぷフォーラムの「絵本出前講座」を導入しました。
 園児・保護者に対しては、年少児・年中児・年長児と3段階に分けて開催しました。(講師・高橋篤子氏)その後、教員研修のため講師に、ほるぷフォーラム代表・藤井勇市氏をお招きしました。
 先の3回の絵本講座では、園児に対して絵本の読み聞かせの実践をして頂き、どの年齢の子どもたちも、大変集中して絵本の世界に没頭し楽しんでいました。
 また、保育者には絵本を通して広く子育てについてのポイントを大変わかりやすくお話して頂き、親が子供に読み聞かせをすることの大切さを再認識する良い機会となりました。

生まれ変わって
『甲たん文庫』誕生

 たくさんの絵本を補充したのを機に、6月度より『甲たん文庫』と名付けて、絵本の貸出を本格的に開始しました。
 毎週木曜日は、年中児・年長児は自分で絵本を借りて帰ります。貸出業務のお手伝いは、お母さん方にお願いし、園と協力して子どもたちの読書活動を推進しています。
 『甲たん文庫』が始まって半年になりますが、子どもたちが図書室にでかける回数も多くなってきました。
 保育室で読んでほしい本を選んできて「先生、この本読んで!」とリクエストしたり、読んでもらったことで、「ボク、今度その本借りる」と言う子が増えてゆき、次はそのシリーズの本を捜して借りていったりしています。年長組では、「今、○○シリーズの本が大流行!」と言った現象がよく見られるようになりました。
 また、自分の興味のあることを「もっと知りたい、調べたい!」と目的意識を持って本を探す子も出てきました。
 そんな子は納得がいくまで同じ本を何回も借りたりしています。
 子どもたちが以前にも増して絵本に興味をもってくれるようになったのは大変嬉しいことです。
図書係のお母さんが
読み聞かせを

 図書係のお母さんが中心になって、12月より当園では読み聞かせを開始しました。年少、年中、年長にあった絵本を選び、それぞれのクラスへ「出前」して読んで頂きました。はじめは少し緊張されたようですが、子どもたちはとても喜んで集中して聴いていました。年長児クラスでは、読み聞かせのあと、園児同士や園児と教諭の会話が弾み、とても楽しかった、と言うことです。
 絵本に興味をもつ子が増える一方で、何を読めばいいかわからない子や、借りて帰っても読まない子がいます。
 こういう子どもたちのために、「絵本は楽しいんだよ!」と本棚に並んだ絵本の紹介をしたり、読み聞かせによって、いろいろな本と出会う機会を多くしてやることが大切だと思います。
 また、親も無関心でなく子どもが借りて帰った本は、必ず読んでやり、図書室にどんな本があるか知ってほしいと思います。そのためにも、お母さんたちが、図書室で選んだ「お薦め本」を持ちよって、読書会をしたり、良い本を紹介しあえるようになれば、家庭と園が絵本によって結ばれ、読書推進が更に図れると考えています。
図書室へ行くのが
楽しみになるように

 歩み始めたばかりの『甲たん文庫』ですが、図書係のお母さん方の輪が広がって、子どもたちへの絵本の読み聞かせが定着し、図書室が大いに活用されるようになることを願っています。
 そうなれば、絵本大好きの子どもたちがもっと増え、絵本を通して親子の触れ合いや絆を深めていくことができるでしょう。 将来、多くの保護者が本に関わるようになれば、『甲たん文庫』も更に充実、発展していけるのではないかと期待しています。



(報告・桑田昭子)

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