絵本講師養成講座

報告者
岡 美佐緒(東京9期)
東京9期
岡 美佐緒
第2編 〜 読み聞かせについて 〜
2015年07月25日(土)飯田橋レインボーホール
主催:NPO法人「絵本で子育て」センター  共催:ほるぷフォーラム社
協賛:岩崎書店・偕成社・金の星社・こぐま社・鈴木出版・童心社・福音館書店・ほるぷ出版・理論社

 2015年7月25日(土)、飯田橋レインボーホールに於いて第12期「絵本講師・養成講座」東京会場第2編が開かれました。東京は、朝から真夏の太陽が照りうだるような暑さでした。次々と会場を訪れる受講生の皆さんの表情は2か月前の緊張した表情とはまた遠い、本日の講座への期待感と2か月前に知り合った同志との再会への喜びに満ちとても爽やかでした。

  勝村美幸さん(東京2期)の穏やかでゆったりとした司会で、いよいよ講座のスタートです。勝村さんから本日講演する松居直氏の講師、松居直先生のご紹介があり、先生が壇上に上がられました。本日の演題は『絵本のよろこび』ですが、松居先生は冒頭から「命をどう感じるか」・「命をどう表現するか」・「命とは、いったいなんなのか」と話されました。その後も、講演の中で幾度となく『命』という言葉を口になさり、松居先生が今日私達に何を伝えてくださろうとしているかひしひしと感じられました。“今日の松居先生の言葉を一言も聞き漏らすまい”と思わず背筋を伸ばしました。

 松居先生が5歳の時に満洲事変が勃発、以後18歳で敗戦を迎えるまで戦争の中で育ち「国のために命を捨てる」ことを教えられ生きてこられたとのこと。長兄、次兄お二人が戦死され、靖国神社に遺骨を引き取りに行ったが箱の中は空っぽだったとのこと。敗戦をラジオで聴き「死ななくてもよくなった」ことに喜びはなく、「自分がどう生きるのか」・「何のために生きるのか」・「いつまで生きるのか」・「将来はどうなるのか」と感じたことが未だに続いている、と話されました。

 生きる意味を見い出せないまま同志社大学に進まれたなかでキリスト教、聖書との出会いがあり、《はじめにことばがあった。ことばのうちに命があった。ことばは命を照らす光であった。》という聖書の一節が生きていくための精神的なよりどころであったとのこと。そして、「ことばには人間を生かす光がある」と直感で感じ、そのことが今まで仕事をしてきたエネルギーであったとのことでした。ことばは、国からもらった「国語」ではなく母からもらった「母語」であり、母親という存在がいかに大きいか。家族はことばであり、家庭の中にことば=生きる力がある。子どもにとって毎日の生活の中でのことばが大切であると話されました。

  その後、絵本『おおきなかぶ』(ロシア民話、A.トルストイ/再話、内田莉莎子/訳、佐藤忠良/画、福音館書店)を手に取り、「これは大うそ。こんな馬鹿な話はない」と言われ会場の笑いを誘いました。現実にありえない物語であっても、絵本のなかに語られている真実を見分けるのは子ども達であること。そして、「目に見えないものを見極める感性」についてサン・テグジュペリの『星の王子さま』の中の“たいせつなことは目に見えない”という一節に触れ、この世界には、ことば、命、愛など目に見えない大切なものがいくつもあるが、物語を聴いていると大切なものを感じとることができる。

 また、絵本は子どもの本ではあるが大人にとっても大切なものである。大人自身が絵本を読み、絵本の本質を確かめていくこと。絵本は絵を読まないと半分以上わからない。絵はことばであり、文章にないことが絵で表現されていて「絵を読む」ことで耳から入る文章の世界が広がってくる。人に読んでもらうと絵を読めるようになる。できれば、親に絵本を読んであげて欲しい、と絵本の「絵を読む」ことの大切さについて話されました。

 そして、何と!嬉しいことに松居先生が『おおきなかぶ』の読み聞かせをしてくださいました!久ぶりに読んでもらう心地よさを感じ、自分が子どもに戻ったような幸せな時間でした。

 このあと、松居先生が、絵本は作者でなく読み手のものである。子どもは作者のことは覚えていないが読んでくれた人のことは忘れない、とおっしゃいました。確かにそのようです。今後、『おおきなかぶ』を開くたび、今日の松居先生のお声が会場の光景とともに私の中で鮮やかに蘇ってくることでしょう。それこそが「絵本のよろこび」に違いありません。

  講座の終盤では、絵本を自分の読書の対象とし、自分の体験した子ども時代を思い出し自分がどういう風に成長し生きてきたかを思ってほしい、大人が、今を大切にしてどういう社会を作っていくのかを自分の問題として考えることが子どもの未来のためである、と話されました。今日の講演をお聞きし、松居先生がことばを何よりも大切にして多くの絵本を作っていらした背景には戦争体験というものが深く根ざしていることを知りました。

  戦後70年の節目となるこの夏、この国が再び間違った道を歩むことがないよう絵本講師として自分のできることを見つめ直すとともに、子ども達の未来のための絵本を届けていきたい、とあらためて思いました。

 

講義する藤井勇市専任講師  休憩をはさんで、午後の部が始まりました。まず、藤井勇市専任講師より、課題レポートやグループワークについて、お話しがありました。また、絵本講師とは、「家庭での絵本の読み聞かせが大切だと話ができる人」であり、「今、世の中がどんな状態になっているのかを踏まえたうえで絵本を読んでほしいと考えられる人」であるとのお話には、受講生の皆さんも熱心に耳を傾けていました。昨今の政治の情勢についても、藤井先生ならではの、辛口の視点で語ってくださいました。

 続いて、岡部雅子さん(芦屋2期)が『いない いない ばあ』(松谷みよ子絵本を読む岡部雅子/文、瀬川康男/絵、童心社)の読み聞かせをしてくださいました。岡部さんの優しい声が会場に響き、受講生の皆さんもじっと聞き入っていました。

 その後、グループ毎に分かれて一人ずつ『いない いない ばあ』の読み聞かせを行いました。ひとつの部屋で一度にたくさんの人の「いないいないばあ」の声が響きわたるのも、第2編ならではの光景です。私が入ったグループでは、我が子には何度も読んであげているけれどたくさんの人に読み聞かせするのは初めて、という方もいました。

グループワーク ひとりひとりの声に違いがあるように、読み聞かせも十人十色です。全員が読み終えた後、お互いに感想を語り合ったり、『いない いない ばあ』の絵本の中で読んでもらうことで改めて気付いたことやご自分が現在どのように読み聞かせに関わっているのかを熱心に話し合われて大変充実したグループワークの時間でした。

 次回の講座は、9月19日(土)です。この夏の酷暑を乗り越え、秋風が吹き始めるころに、学びを深めた受講生の皆さまとお会いできることを楽しみにしています。

 

(おか・みさお)

 


グループワーク
グループワーク風景

第12期「絵本講師・養成講座」
★芦屋会場リポート 第1編/第2編/第3編/第4編/第5編/第6編
★東京会場リポート 第1編/第2編/第3編/第4編/第5編/第6編