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報告者
芦屋8期生
福田  人規
第4編   〜 絵本講座の組み立て方 〜
2012年10月20日(土) ラポルテホール
主催:NPO法人「絵本で子育て」センター  共催:ほるぷフォーラム社
協賛:岩崎書店・偕成社・金の星社・こぐま社・鈴木出版・童心社・福音館書店・ほるぷ出版・理論社

 青い空高く秋風の心地よい10月20日(土)、第9期「絵本講師・養成講座」(芦屋会場)第4編が芦屋ラポルテホール特設会場で開催されました。本講座も第4編ということで、受講生の皆さんの緊張感も解れ会場に入って来られる時の爽やかな笑顔が印象的でした。

――黙祷――
開講に先立ち、昨年10月13日にお亡くなりになられた中川正文先生(作家・「絵本で子育て」センター顧問・児童文学者協会創立会員)のご冥福をお祈りして、受講生、スタッフ全員で黙祷を捧げました。
DVDによる中川先生の講演会の上映では、光の反射で聴きづらい部分はないかと心配されましたが、先生のお話されるお声は温かくユーモラスで自然と受講生に届いているようでした。晩年の闘病のために、お声は決して大きくはありませんでしたが、穏やかに話されたお言葉にはこれからの社会を生きていく子どもたちへの愛情が溢れていました。
大人と子どもは、その絶対的な関係から無意識のうちに上下関係に陥りがちですが、大人が高みから言葉を投げかけるのではなく、同じ目線(平座)であることが大切だと話されます。読み聞かせの現場においても、「与える」「下ろす」といった無神経な言葉が使われることがありますが、それは大人の傲慢な心の表れで、見下したような心持ちではなく、やがて大人になりゆく子どもたちの心を尊重すべきであると諭されました。また、絵本を読む時間や空間を、同じ目線で共有し共に感動し、成長していくことが――人が人に文化を伝えてゆくことである――と話されました。
絵本を選ぶときに「優しい気持ちを持つとはどういうことだろう?」「命を大切にするとは?」、そう意識していたいと語られた先生は最後に、『すみれ島』(今西祐行/文、松永禎郎/絵、偕成社)を読んでくださいました。
戦火の中にあっても無邪気な子どもたち、飛行機が飛んでいく本当の意味を知る先生。死を覚悟して散り逝く若い命、そして優しい香りのすみれの花……。大切な命のもとに成り立っているこの平和を忘れないように…静かな口調で読んでくださいました。全員、目を閉じて絵本に描かれた情景を思い浮かべながら聴き入りました。
DVDによる講演でしたが、先生のお話が終わると会場が感謝の拍手に包まれているようでした。

午後は藤井勇市講師(「絵本講師・養成講座」専任講師)のお話です。
第8期の講師陣の中には藤井講師の講演はプログラムされていませんでしたので、心待ちにされていた方もおられたのではないでしょうか。
はじめに故中川正文先生との出会い、「絵本講師・養成講座」のためにお力添えいただくことになった経緯、『お魚』(金子みすゞ全集、JULA出版局)を挙げられて先生の「生きる」ということに対する深い洞察に触れられました。また、数多い作品の中から『青い林檎』(百華苑、昭和24年発行)、『絵本・わたしの旅立ち』(NPO法人「絵本で子育て」センター)、『きつねやぶのまんけはん』(同)を紹介されながら、先生のお人柄と温かな思い出を語られました。

次に、子どもたちに絵本を届ける大人の基本の心構えについて話されました。本講座では、よく3.11(事件・事故)のことが話題になりますが、「絵本から離れたことをどうして?」と思われるかもしれません。
「絵本講師」は、絵本の内容や作家について、また、絵本を取り巻く知識を持っているスペシャリスト(専門家)としてではなく、広く大きな社会全体を見渡せる視野を持って、「なぜ今、絵本が必要なのか」を語れる存在であってほしいという願いがお話から感じられました。
藤井講師は大人の条件として3つの事柄を挙げられました。
1. 自分が経験したこと・知っていることより、知らないことの方が圧倒的に多いと自覚できる人。
2. 誰かがすれば他の誰かが助かることを、明示しないで黙って実行できる人。
3. 他人の家族も自分の家族ほどでないにしても大切だと思える人。
そして、今の世の中が生きづらいのは、皆が大人になりきれていないのでは、と話を続けられました。

子どもたちを取り巻く環境を考えるうえで切り離せない教育についても、お話されました。本来、義務教育は、啓蒙の教育であり、子どもたちを自立した「類的」存在へと導くものである。ところが現代は、厳しい競争(格差)社会になっています。それを背景にビジネスとしての教育観が広まり、より有利に生きるために教育の早期化が蔓延してきた(ここでは、妊娠後期から学齢期までの、<主に知識を獲得する>ものを早期教育と定義されています)。
講師は『急がされる子どもたち』(デイヴィッド・エルカインド/著、戸根由紀恵/訳、紀伊国屋書店)を紹介し、話されます。子どもたちには子どもである時間にするべきことがあり、その時間を大人の都合で犠牲にしていないか? 人生を大切に考えるのなら、どの時期も同じように大切にしたいものだと。子ども時代の経験は、そのまま人の心に「絵本」として残り、人生を支えてくれるようにもなる、と。
子どもたちを取り巻く環境全体を把握しながら、私たち絵本講師は絵本を子ども(家庭)に届けていかなくてはならないと再認識しました。

そして、私たちが講座を開くときに、必ず経験する「緊張」や「あがる」ことについても言及されました。「あがる」ということは、場数を踏むことである程度は解決するだろうし、「緊張」は聴き手に対する畏怖や敬意の表れであるから、その講座はきっと素晴らしいものになるだろう、と。温かい声援をいただいたように思えました。

最後に行なわれたグループワークは活気に溢れていました。回を重ね、絵本が好きだという共通のもとに、更に強い関わりを持つグループへと変化しているようです。それぞれに「お勧め絵本」を持ち寄ったり、絵本に関する情報交換をしたり、また、課題リポートについても積極的に話されていました。特に最終リポートにつながるテーマや、子どもを取り巻く環境についての意見交換はとても意義あるように思えました。

次回の第5編は12月15日です。季節も移り、師走の忙しい時期ではありますが、体調など崩されませんよう、元気にお会いできますこと、楽しみにしております。(ふくだ・ひとみ)

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