バナー
報告者
東京7期生
佐藤 ひろみ
第4編 〜絵本講座の組み立て方〜
2011年11月26日(土) レインボー会館
主催:NPO法人「絵本で子育て」センター  共催:ほるぷフォーラム社
協賛:岩崎書店・偕成社・金の星社・こぐま社・鈴木出版・童心社・福音館書店・ほるぷ出版・理論社

 「黙祷」
故・中川正文先生に、全員で一分間静かに祈りを捧げることから開始されました。
第8期「絵本講師・養成講座」第4編は11月26日、寒い中にも身も引き締まるようなさわやかな空気をたたえた晩秋の日、飯田橋レインボーホールにて開催されました。

 去る10月13日にお亡くなりになられた中川先生(作家・大阪児童文学館特別顧問)は、「絵本で子育て」センターの主催するこの講座の主旨に深くご共鳴、講演を快くお引き受けくださると共に、創設時の2004年から毎年欠かさずご出講くださいました。本来ならば、第1編の記念講演としてご講演を予定されていた中川先生の「絵本・私の旅立ち」は、今回に延期され、ビデオ視聴という形で実現され、拝聴することとなりました。ユーモアと子ども心を失わない豊かな感性と、幾多もの苦難を乗り越えられてきたゆえににじみ出る強いご意志と優しさが、そのご講演によりいっそうの深みを与えていた記憶が心よみがえることとなりました。中川正文先生の生前最後の講演を受けることの出来た、第7期受講生だったことに感慨を憶えつつ、すばらしい贈り物を遺してくださったことに感謝を込めて、心よりご冥福をお祈り申し上げます。
一分間の黙祷の中で、中川先生のお言葉が脳裏を駆け巡り、再びご講演を聞くことで、確認し心に焼き付けることになったと思います。

 「心に寄り添う」
それは東日本大震災の後、よく耳にし、目にした言葉です。「決して高みからものをいうことなく、同じ目線に立って共に考えること」それは親と子の関係のみならず、人と人との基本的な繋がりについての普遍性を指し示していたことを、今回の惨禍を予言していたようなお言葉を通じて改めて強く実感することとなりました。

また、「本当の付き合いは長い長いもの。それは、絵本も人も同じ」
昨年、息子に何度も読んでとせがまれた『きつねやぶのまんけはん』(作:中川正文 画:伊藤秀男、NPO法人「絵本で子育て」センター)。しばらく経ったある日、また突然読んでと言われて読んだその時、「これはこういう意味だったんだね」という息子の言葉を聞いて、良い絵本は何度も繰り返し読んで、読む度に新たな発見と理解があるものなのだ、と実感し私もまた、先生のお言葉を何度も繰り返しつぶやいていました。

最後に『すみれ島』(文:今西祐行 絵:松永禎郎、偕成社)が先生により朗読されました。実は、ビデオ視聴が始まる前、果たしてビデオで中川先生の気迫や心持ち、その空気感が伝わるのだろうか? との思いが心をかすめたのですが、講演が終わった瞬間、それは私の浅はかな杞憂であることを思い知ったのです。会場のあちこちで受講生がハンカチで涙を拭う姿を目の当たりにした時、先生の言葉や生き様は、その魂と共に私たちに受け継がれ、また、次の世代に受け継いで行くものとして深く心に刻んだのでした。

そして昼食後、予告されなかったサプライズが!
なんと、松居直先生が、今回の講座のために駆けつけてくださったのです。ひょっこりと登場し、さりげなく静かに壇上に座っていらっしゃるそのお姿に、驚きと喜びの表情をたたえた受講生たちの視線が注がれていました。

今回第8期・第1編の記念講演をしてくださった松居直先生(児童文学家・福音館書店相談役)は、故・中川正文先生とは、旧知の仲でいらっしゃるとお聞きしており、今回も、中川先生を偲ぶ松居先生のお気持ちが込められた、とてもすばらしい講演をしてくださいました。

まず、『ごろはちだいみょうじん』(作:中川正文 絵:梶山俊夫、福音館書店)を手に、方言がなくなるとともに、その地方の文化も失われている今、土地ことば・地域ことばの大切さを問われたお話をしてくださいました。自分自身も実家に帰郷するたびに、親兄妹の話す地方なまりに「ああ、帰って来たな。」とほっとしたことを思い出し、生まれ育った土地の文化や言葉は、人に心の拠り所と安定をもたらし、誇りを築く大切な源泉なのだと深く感じ入りました。

また、「ベストセラーではなく、長く売れる本を作れ」、と自らの後進にご指導し伝えられているというお話に、中川正文先生の「本当の付き合いは長い。世代を越えて受け継がれる」というお言葉と重なり、奥底で繋がるお二人の共通の魂を感じました。
何度お聞きしても、心に深く感銘を憶える松居先生のお話を、この1年で2度も聞くことができたことの幸運に感謝するとともに、次世代に伝えて行かなくてはならない強い使命を思ったのでした。 

 講演の後は、毎回恒例のグループワーク。グループごとに机を並び替え、藤井勇市専任講師からのお話です。当初は、松居先生ではなく藤井講師の講演が予定されていました。
「子どもたちに絵本を届ける前に……」「子ども・おとな・絵本」という題目で用意されたレジュメと資料を見ると、メデイア・リテラシーの問題から、国・社会・地域・隣人を考える人がいなくなっている、自分とその家族しか考えていない人が多くなった、といった、講座の度に藤井講師からのお話の中に出てくる内容を総括したような、とても興味深いものでした。藤井講師は「私の話より、素晴らしい松居先生のお話が聞けて良かったですね」と遠慮気味におっしゃられましたが、個人的には是非お聞きしたかったと思います。

最後のグループワークは、もう4回目ということもあり、お互いの人柄を徐々に知るようになった受講生の皆さんは、リラックスした雰囲気の中、今回の講演や絵本についての話題は尽きることはありませんでした。一時間ほどの短い間でしたが、とても充実した議論が出来ていたように思います。最終リポートに向けての骨組み作成となる次回のリポートに、不安とプレッシャーを感じつつも、意欲をにじませている受講生の方々に、一年前の自分の姿が重なり、励ましの言葉にも力が込もりました。

次回は、森ゆり子理事長の講座をお聞きして、いよいよ最終リポートに向けての最後の準備にかかります。自らもまた、リポートを書くつもりで日々邁進していこうと思った今回の講座でした。(さとう・ひろみ)

★芦屋会場リポート 第1編/第2編/第3編/第4編/第5編/第6編
★東京会場リポート 第1編/第2編/第3編/第4編/第5編/第6編

第3期リポート はこちらから ★ 第4期リポート はこちらから ★ 第5期リポート はこちらから
第6期リポート はこちらから ★ 第7期リポート はこちらから ★ 第8期リポート はこちらから
 ★ 第9期リポート はこちらから ★ 第10期リポート ★ 第11期リポート はこちらから

絵本で子育てセンター