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報告者
芦屋5期生
田之頭 郁子
第5編   〜 絵本講座をやってみよう 〜

2009年12月12日(土) ラポルテホール

主催:NPO法人「絵本で子育て」センター  共催:ほるぷフォーラム社
協賛:岩崎書店・偕成社・金の星社・こぐま社・鈴木出版・童心社・ほるぷ出版・理論社
特別協賛:ラボ教育センター

 師走も半ばに入った 12 月 12 日、第6期「絵本講師・養成講座」(芦屋会場)第5編が、講師に松居直先生 (児童文学家・福音館書店相談役) をお迎えし、芦屋ラポルテホールで開催されました。

 先生は福音館書店の創業時より絵本と深く関わってこられ、月刊物語絵本『こどものとも』を創刊されるとともに編集長として数多くの絵本作家を世に送り出してこられました。待ちに待った松居先生のお話しを拝聴しようと、朝早くから受講生が会場に姿を見せておりました。

 演題は「絵本のよろこび」。

 まず先生は、敗戦直後の暗く混乱した時期にトルストイの作品との出会いからお話しを始められました。終戦を迎え、自分は何のために生きるのか、人生の意味や目的が分からなくなってしまって「生きる」という大きなテーマに直面したとき先生は、その答えをトルストイの中に見いだしました。お父さまと二人で古本屋に行きトルストイ全集を買ってもらったそうです。

 全集を隅から隅まで読み漁り、生と死の意味、その答えはトルストイの作品の中にあり、その本との出会いは先生の人生をも変えるほどのものであったということです。
本の持つ力、読書の意義、それは絵本であっても変わらないという思いを強くしながらお話しを伺っておりましたが、先生は、読書とは本の世界に入り込むことであって、字面を読むだけでは読書とは言えず、作者と対話することが大切です。そのためにも子どもたちの生活体験を豊かにすることが必要ですと話され、そして、次のように続けられました。

 ≪風の音や雨の音、空の色、雲が移り変わっていく様子、それらは微妙なニュアンスに溢れており、そのニュアンスは五感を働かせることで捉えられます、だから子どもたちの五感を養っていくことが大切なのです、日常生活や集団での遊びは言葉の渦と言われるほどで、その遊びの中から子どもたちは五感を働かせることを学んでいき、言葉のニュアンスを感じ、心を育てていくでしょう≫

 私は空の「青」を思ってみました。空の青さと言っても、その青という言葉にはいろんなニュアンスが染み込んでいます。透き通るような青、絵の具を厚く塗ったような青、空が迫ってくるような青、刷毛でサッと刷いたような青、そういったニュアンスは、先生のおっしゃるように私たちの五感で捉えられるのでしょう。そのようなゆたかさを感じ取る五感の働きが絵本を媒介にして表れてくる、と先生のお話しを通し深く理解することができました。

 更に先生は、絵本の絵は見るものではなく読んでもらうもので、絵本の中にあるものはすべて言葉となり、よい絵本ほど絵が素晴らしく、絵本は文字の世界と絵の世界が交じり合ったものなのです、とお話しになりました。

 それを聴いて私は、文字の読めない小さな子どもたちは、大人の読む声を聴きながら、五感を働かせて隅から隅まで絵を読んでいるということを実感しました。また、聴くことが絵本を読む基本であり、人間の生の声を子どもたちに届けてあげたい、ともおっしゃっていました。寝る前に絵本を沢山読んでくれたお母さまの緊張感のとれた顔や声が、今でも鮮明に記憶の中に残っているという先生のお話しからは、思いの深さのようなものが伝わってきて、いまさらながら絵本の持つ不思議な力に目が開かれる思いでした。

  ゆたかな言葉を聴く力、人間の生きた声を捉える五感の働き――それは心のゆたかさと結びつくと思います。
先生は、『ちいさいおうち』 (作・絵バージニア・リー・バートン/訳石井桃子、福音館書店) を取り上げられ、この絵本は人の一生を季節にたとえて、時間という目に見えないものを見えるかたちにしています、と評されました。そして、サン=テグジュペリの『星の王子さま』 (内藤濯訳、岩波書店) が教えてくれたように、人にとって本当に大切なもの、言葉や心や愛、悲しみといったものはみな「目に見えない」ものであって、心で見て感じる力を養うことが大切なのです、とお話しになりました。思うに、それはまた日本語の美しさを感じ取る心にもつながるでしょう。

  そして、先生はこう言葉を紡がれました。

 ≪子どもは同じ絵本を何度でも読んでもらうことが好きで、そのうちに、そっくりその言葉を覚えてしまうでしょう。子どもは言葉をすっかり食べてしまうのです。同じ本をせがまれますと、大人たちはまたかと思うかもしれませんが、しかし子どもたちはすべてを心の中に刻みこんでいきます、手でページをめくる様子やその時の声の感じ、ぬくもりなどを。そして、そのようなことを子どもたちは一生忘れることができないのだと思います。子どもたちの心の中に残っていくということに大切な意味があって、また無償の愛で読み続けることが大事なのです。自分の気持ちがこめられる絵本を是非選んで、無理せずに読んであげてください。その積み重ねが、心で見て感じる力を養うと思います≫と。

 先生はご自身の体験を基に、絵本が与えるよろこび、絵本が持つ力について貴重なお話しをなさってくださいました。先生のお話しを聴き、絵本を子どもたちに読んであげるということは、子どもたちと心で触れ合うこと、心を育てていくことなのだという思いが、改めて胸の中に溢れてきました。あっという間の 90 分間でしたが、目に見えない深い体験が私たちの心の中に染み渡ったことと思います。改めて松居先生に感謝の意を表したいと思います。

 午後からの時間は、すべてグループワークとなりました。
藤井専任講師から修了リポートについて説明があり、これまでの課題リポートの出来が良いという報告もあり、修了リポートも大変楽しみにされているそうです。また、最近の社会問題から、家の中でゲームやパソコンばかりしていて外部との接触を遮断する人々が増えてきていることをお話しになりました。新しい情報として改訂された岩波書店の国語辞典(第7版)に、これまでなかった「読み聞かせ」が収録され、「読み聞かせ」という言葉が一般化してきたのではないか、ということもお話しになりました。

 どのグループも最終リポートに向けて活発に意見が飛び交っていました。なかには絵本の読み聞かせをしている様子も伺えました。
最終の養成講座は来年( 2010 年) 2 月に行なわれます。いよいよ受講生が絵本講師としてはばたく日も近くなってまいりました。真剣に講座に取り組む姿勢、目を輝かせている姿は大変美しく、私自身学ばせていただくことが多くあります。
初心を忘れずおごりのないように、成長し続ける努力を心がけたいと思います。 (たのかしら・ゆうこ)

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