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報告者
東京2期生
井原 幸子
〜  絵本講座の組み立て方  〜 第4回

2007年11月17日(土)
飯田橋レインボービル

主催:NPO法人「絵本で子育て」センター  共催:ほるぷフォーラム社
協賛:岩崎書店・偕成社・金の星社・こぐま社・鈴木出版・童心社・ほるぷ出版・理論社
特別協賛:ラボ教育センター

 第 4期「絵本講師・養成講座」第4編(東京会場)が11月17日に開催されました。当日は肌寒い一日でしたが、受講生は熱心に会場に参集されました。なお開講に先立ち、司会者から今日の講座に絵本講師「はばたきの会」副会長井下陽子さんほか3名の方が参加されており、紹介がありました。

 午前の講座は松居直氏(福音館書店相談役。現在、大阪国際児童文学館理事長)でした。氏は半世紀にわたり子どもの本の編集に当たってこられた豊富な経験を踏まえ、幼児にとっての絵本の大切さを力説されました。受講生は氏の幼児体験を交えた説得力ある講義に、静かに耳を傾けました。

 幼いとき『赤い鳥』(鈴木三重吉創刊。 1920年代から太平洋戦争が始まる前まで刊行され続けた童話と童謡の雑誌)で、西条八十、北原白秋を知り、ことばの楽しさに目覚められた氏は、親が読んでくれた白秋の「雨降り」の詩のことばの新鮮さに驚き、布団の上で跳ねて踊ったことを今も鮮明に覚えているそうです。また、小学生のころハードカバーの小国民文庫に出会って感動したことや、中学生時代に神社で神主さんに国宝級の絵巻物を見せてもらった体験が、氏の絵本作りに大きな影響を与えたことが理解できました。

 「大人は絵を見るが、子どもは絵を読むことができる。絵は文章の 3倍も書いている。子どもに絵本を読み聞かせると、絵の言葉の世界、文の言葉の世界が子どもの中で一つになって子どもの中で絵本を作る。だが、文章が悪いと子どもの中にイメージが湧かない。単なる説明文では、子どもに緊張感がなくなって興味を示さなくなる」と絵本における文章の大切さを語られました。それから、講義の中で度々石井桃子さんの文の素晴らしさに触れられ、石井さんの文は追っていくと全部目に見える見事な文章だと話されました。受講生は、絵本における絵と文が共に大切であることを再認識したのではないでしょうか。

 「絵本は、線と形と構図である。ブックプランナーは、油のブラシを何十本も持っていて、一つの面にゆっくりゆっくり線を引く。心に残る線が造形の線だ。線には連続性と変化があり、連続性と変化の中にプリントされないと物語はできない。そして、絵の中の色の余白が物語を豊かに語る」と、絵本における線と余白の大切さを、何人かの絵本作家を例に挙げて話されました。線は想像の扉と言われます。 1本の線から子どもは空想の世界へジャンプすると読んだことがありますが、まさに1本の線、色の余白も物語を語っていることが理解できました。また、「絵本に対する考え方や読み方について書かれているものが多いが、舞台裏は書かれていない。見る立場が主で、どのようにしてできるのかが書かれていない。本というものは造形だ。物語により、本の形や大きさは様々だ。私は文を横書きにした張本人だが、横書きは左開きで縦書きと逆になる。地球は多文化社会で、世界中の本は、文字と造形により開き方が違う。本を閉じる音も一冊、一冊異なる」と持参の本を閉じてみせ、受講生は、判型、厚さ、紙質などによって異なる音の響きに聞き入ったのでした。

 「人間にとって大切なものは目に見えない。例えば、時間、善、悪、うそ、ほんとなどで、それらは目に見えないが、言葉によって思い描き人に伝えることができる。ところが現在、子どもたちは映像の世界にいて、に見えないものを感じ思い描く力が弱くなっている。言葉が貧しくなることは、人間の退化につながる」と現状を憂えておられました。「絵本は子どもに読ませる本ではない。大人が子どもに読んであげる本である」と話されました。絵本講師の一人一人の羽ばたきは小さくか弱いですが、協力し合い、「絵本で子育ての輪」を広げ、絵本と幼い子どもたちの出会いの場が増えるよう努力していきたいものです。

 午後は、梅田俊作氏(絵本作家)の講演でした。
  東京会場は初めての上、方向音痴なので、氏が会場にたどり着けるかとご家族が大変心配されたそうですが、無事定刻までに会場にお出でになりました。このいきさつを聞いて会場は笑いに包まれ、和やかなうちに講演が始まりました。現在、徳島県にお住まいで、家の前に 7反の田園が広がり、稲刈りの終わったあと落穂拾いを楽しまれているそうです。

 講演はいじめをテーマに書かれた『しらんぷり』と摂食障害の少女を預かったケースについてが中心でした。『しらんぷり』は、全国を取材旅行して書かれたそうです。ちょうど、A少年事件が起きたころで、いじめが今日のように増えるのを予感されたとのことです。「この本は、隠れているいじめをたたき台にして白黒で書いた。この本には自分の中にあるしらんぷりをして先送りをするかもしれないいじめを集約してある」とのことでした。一方、「しらんぷりも生きる知恵じゃないかとも思う」とも言われました。

 そして、氏が摂食障害の少女を預かったケースでは、少女が快方に向かう過程で、彼女に振り回された周りの大人たちが変調を来しそうになったので彼女を病院に送るというのを、何とか少女を救おうと住まいを用意し呼び寄せた母親と少女が同居したところ、少女は奇跡的に快復し、送り帰すことができたそうです。地元の漁師ら 100人火の玉になってかかったけれど最後は母親一人に適わなかったと話されました。このことが脚光を浴び、母親が子にかこつけて次々とやって来るようになったので、入所者を面接で決め、NHKの課外授業のような形で、追い詰められて行き場のなくなった子どもと竹トンボで遊んだり、海辺で宝物(ガラス玉や石ころ)を拾って遊びほうけたりして、とことん子どもに付き合っているそうです。落ちこぼれの子、外れる子の中にもじわじわと力を発揮する子がいる、学習障害の子も見捨ててはならないと強調されました。また、「読み聞かせを、老人ホームに広げていってほしい、絵本には心を洗われるものがあり、絵本を読んでもらうと子どものころの至福の時間に入っていく。読み聞かせには、読み聞かせ以外のものを何か一つ添えて」と言われました。講演の最後に、氏とはばたきの会幹事の松本也寿子氏がリレーで『しらんぷり』を朗読し、終了時間を30分程延長して読み終えました。松本也寿子幹事の落ち着いた朗読を聞いて「絵本は著作者のものではなく読み手のものだ」と感想を述べられていました。読み聞かせにおいて母親の声は、金の鈴に例えられますが、摂食障害の子も最後は母の力により立ち直ったという実例に、受講生は改めて子育てにおける母親の役割の大切さを実感されたのではないでしょうか。

 お二人の講師は講演の中で、ともに高齢者への絵本の読み聞かせについて触れられ、絵本の読み聞かせは高齢者を癒し、高齢者の生きる力につながるという趣旨のことを話されました。また、松居講師が「高齢者に絵本を読んで差し上げる」と敬語を使われたのが心に残りました。

 グループワークでは、交互に今日の講演について活発に意見を交わしたり、この講座の受講動機について語り合っていました。

 藤井専任講師からは、課題リポートを作成する際、資料を引用する場合は、出典・取材源(出所、日付等)を明示するようにとの注意がありました。また、今日の講演で松居講師が「原稿は手書きにしている」と言われたことに関連して、この講座が課題リポートの手書きを求めている趣旨を受講生が少しは理解できたのではないかと言及されました。

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