こども歳時記
〜絵本フォーラム第39号(2005年03.10)より〜
感情が未分化な子どもたち
 庭の片隅にふきのとうを見つけました。それは、その晩のわが家の食卓に少し早い春を呼んでくれました。子どもたちがまだ幼いころは、「春の味だよ」と食べさせると、「にが〜い」と言いながらも我慢して一つだけ食べていましたが、10歳を越えた今では、はしもつけません。そういえば私も子どものころ、嫌いな食べ物がありましたが、大人になるにつれ食べられるものが増え、今では酸味や苦みさえおいしく感じられるようになりました。いろいろな味を体験する中で味覚の分化が進み、おいしく感じるものが増えていくのでしょう。

 最近、数多く報道される少年事件ですが、その加害者の子どもたちの中に「感情の未分化」を指摘される子が出てきました。感情も味覚のように分化していくのだということを改めて知りました。味覚と同じく、成長とともにさまざまな感情を体験することがとても大切なのですね。
 けんかをすると悲しかったり、痛かったりするから、どうしたらけんかにならないかを考えて、仲直りの方法を見つけていく。そして、仲良くしていると楽しいことが増えていく。私たち大人はそんな体験を重ねる中で、他人との心地よいかかわり方を学習してきたのだと思います。「けんかなんてせずに、みんなと仲良くしなさい」というのは理屈の上だけのこと。心では感じていないので、行動に反映しにくいのです。ほとんどの大人たちが「人を殺してはいけません」と“習って”いないのにわかるのはなぜでしょう。小さいころから、周りの人たちの死にまつわる痛みや悲しみといった想いを感じて生きてきたからこそ、“わかる”のではないでしょうか。

大人も子どもも もっと心を動かそう


『ぐりとぐら』
(福音館書店)
 人として生きていく上で必要な多くのことを体験できた「遊びの三つの間(時間・空間・仲間)」が激減した今、どうすれば子どもたちにさまざまな感情体験の機会を増やせるかというと――それが絵本なのです。読み聞かせなのです。幼い子どもたちは絵本の中に入り込んでさまざまな体験をしていきます。皆さんご存じの『ぐりとぐら』(なかがわりえことおおむらゆりこ/作、福音館書店)を幼いころに読んでもらった人の中には、「あのカステラが甘くておいしかった」と味覚で覚えている人がたくさんいます。幼い子どもは絵本の中に入り込んで、登場人物と一緒に色や味や感情を体験しているのです。どうぞ絵本のさまざまな世界を子どもたちに体験させてあげてください。それが子どもたちから「三つの間」を奪ってしまった大人が今、しなければならないことではないかと思います。  大人も子どもも、もっと心を動かしましょうよ。泣いたり、笑ったり、困ったり、悩んだり――それが生きているってことでしょう。みんなもっと本を読もう。人間らしい社会を取り戻すために、自分を生きるために。(松)

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