こども歳時記
〜絵本フォーラム第36号(2004年09.10)より〜
自然の呼び声に耳を傾けて……
  暑い暑い夏も、やっと過ぎてくれました。まさに記録更新の夏でしたね。自然がおかしくなってきているのでしょうか。人間の営利活動のために、自然本来のバランスをあまりにも崩してしまったのではないかという気がします。

『森は呼んでいる』
(岩崎書店)
 『森は呼んでいる』(及川和男/さく、中村悦子/え、岩崎書店)は、山に植林を始めた、実在する1人のカキ養殖家の行動を引き金にして生まれたものです。「森は海の恋人」を合い言葉にして、気仙沼湾に注ぐ大川の上流の岩手県室根山に植林を始めたのです。小学校5年生の森人くんの目線で描かれています。
 「わたしたちは自然の恵みを受けて命を生かしているのです。(略)空や海や川や森は、(略)たくさんのことを呼びかけているのです。この作品は(略)森の呼ぶ声や叫び声を耳にしながら、いっしょうけんめい書きました。どうかみなさんも、その声を聞きとってください」(著者あとがきより)
 今年6月、ある大学が関東の子ども900人(小5〜中3)を対象に調査したところ、「日の出・日の入りのどちらも見たことがない」という子が52%もいたそうです。「見たことがある」と答えた子の中でも、7回以上は6%にとどまっています。以前に聞いた別の調査では、星空を見たことがない子どももかなりいるようです。この世に生を受けて10年、15年もの間、日の出や日の入り、星空を見たこともない子どもがいるというのは一体どういうことなのでしょう。
 夕陽の紅や夕焼け空が暮れていく様も知らない子どもたちは、ただ自然を体験できていないだけなのでしょうか。人とかかわること、語りかけてもらうこと、心が何かを感じること等々の機会が失われてきたからではないかという気がします。
絵本の読み聞かせは心の栄養
 子どもが成長していくのに必要な「普通と当たり前」が失われてきています。小社出版物で恐縮ですが、『絵本で子育て』(絵本フォーラム編集室/編)の中の「子どもたちの悲鳴が聴こえますか」という章では、子どもの育ちに必要なものを、今の生活の中でどう取り戻していくかをわかりやすくお伝えしています。
 絵本を読んであげる時間は、生活の中で失われてきた、子どもが成長するために必要なものを補ってくれます。おっぱいやミルクがないと赤ちゃんは育たないように、食べ物をとらないと身体を維持できないように、絵本を読んでもらわないと心の栄養失調になってしまうかもしれません。
 この時代の子育てには、絵本が必需品です。親子で絵本の世界を体験する時間は、親として育つ時間でもあるのです。
 さて、今日はどの絵本を読もうかな。(松)

『絵本で子育て』
(絵本フォーラム編集室)

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