こども歳時記
〜絵本フォーラム第30号(2003年9.10)より〜
心を満たすもの欠乏症
 何とか無事に夏休みをやり過ごすことができました。夏休みは子どもとのコミュニケーションを増やす絶好の機会でしたが、うまくいきましたか。ささいなことでも心に響く共通体験がありましたか。「暑い」「うるさい」と叫んでいるだけだった? どこかに連れて行き、何かを買ってたくさん出費した? それもたまにはいいのでしょうが。

『ふたりだけのキャンプ』
(童心社)
 物や器械をたくさんあてがわれても、認めてくれる人がいなければ、あたたかなまなざしや包んでくれる声がなければ、心は満たされないことを経験で知っている大人も多いはずなのに、親子という人間関係の中では、それを忘れてしまうのでしょうか。そんな「心を満たすもの」欠乏症で、成長発達を阻害されている子どもたちが増えてきたような気がします。
 『ふたりだけのキャンプ』(松居友文/高田知之写真/西山史真子絵/童心社)のゆうじは、お父さんとふたりで行ったキャンプで何を体験するのでしょうか。心を満たすとはどういうことか、大人にも少し感じとれるかもしれません。
まずは、大人こそ読書の秋を
 読書になじんでいる人は、読みたい本選びなんて書評や口コミなどで自然にできているものですよね。知らなかった世界との出会い、現実では味わえないような感動、わき起こる感情の体験など、一度でも書物によって心打たれる経験をした人は、本を読むのが楽しくなります。「私は本は苦手で」と思い込んでいる大人のあなたは、まだ自分の心とリンクする本に出会っていないのでしょう。だから嫌いと決めつけて読まないなんて、もったいない話です。かつて大人はみんな子どもだったのだから、子どもが登場する児童書からでも読んでみませんか。
 『カラフル』(森絵都作/理論社)はいかがでしょう。いいかげんな天使が、一度死んだはずのぼくに言った。「おめでとうございます。抽選にあたりました!」ありがたくも、他人の体にホームステイすることになるという。前世の記憶もないまま下界生活にまいもどり……。気がつくと、ぼくは小林真だった。軽めで楽しいけれど、ちょっとだけ考えさせられる本です。
 『エパミナンダス(愛蔵版おはなしのろうそく1)』(東京子ども図書館編・発行)で親子で笑い転げるのもいいですね。想像してみてください。とても暑い日に、できたてバターを頭にのせて運んできたらどうなる? とけたバターが頭からたれてきて……。
 頭の中で本の世界を体験するのって、どんな気分? ちょっとでもイメージできたなら、きっといろんな本を楽しめますよ。まずはなじみのあるジャンルから挑戦してみてください。

『カラフル』
(理論社)

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